岸田文雄首相が5日発売の月刊誌「Voice」のインタビューで、今後は「国民に伝える力が求められている」と語ったことが波紋を広げている。政権運営そのものには問題はなく、「伝え方」が不十分だったとの認識を示したうえ、今後は発信力強化に努めるという意思表明であり、9月の総裁再選への意欲を示した格好だ。
岸田首相は就任以来、「聞く力」に加えて「決める力」も重視してきたと強調。そのうえで「(今後は)決めたものを国民に『伝える力』が求められている」との認識を示し、「政治家として進化しようと精進しているところだ」と語った。
内閣支持率の低迷は発信力が不足していたからであり、それを改善すれば人気は回復するとの自己評価である。
これは、自民党を直撃した裏金事件について、リーダーたる総裁が政治責任をとらずに首相に居座っているという自民党内の大勢の受け止めとはまっこうから食い違う。自民党内からは首相退陣論が公然と噴き出しているのだ。岸田首相と自民党内の認識ギャップは埋め難い。
自民党は東京都知事選こそ、現職の小池百合子知事を裏支援して勝利したものの、同時に行われた東京都議補選は2勝6敗で惨敗。裏金事件で批判を浴びた萩生田光一都連会長の地元・八王子でも敗北し、裏金事件への批判がやんでいないことを見せつけられた。自民党内では岸田首相の総裁再選に反対する「岸田おろし」が加速している。
岸田首相は内閣支持率が低迷し、9月総裁選前に衆院解散・総選挙を断行して再選の流れをつくる戦略に失敗した。解散なしに党内のライバルを引き込むか蹴落とすかして再選を果たす戦略を描いているが、情勢は極めて厳しい。
自民党内では総裁レースの号砲がすでになっている。国民人気トップの石破茂元幹事長は非主流派ドンの菅義偉前首相の後押しを受けて総裁選に出馬する意向を固めたとされる。一方、主流派では首相との関係が悪化している茂木敏充幹事長が出馬への意欲をにじませている。このほか、高市早苗経済安保担当相も推薦人集めに動く。若手からは当選4回の小林鷹之前経済安保担当相を担ぐ動きもある。河野太郎デジタル担当相も出馬への意欲を隠していない。小泉進次郎元環境相の出馬に期待する声も強い。
また、岸田首相が不出馬に追い込まれた場合、岸田派の林芳正官房長官や上川陽子外相が出馬するとの見方も出ている。
岸田政権の求心力はかつてないほど落ち込んでおり、自民党内ではポスト岸田レースが事実上始まっている。それを押し戻して本当に岸田首相が出馬に踏み切れるのか。
8月末までに勝利の手応えをつかむことができなければ不出馬に追い込まれる可能性が高い。残された時間はあまりなく、内閣支持率をお盆までに引き上げることができるかどうかにかかっているといえるだろう。