岸田文雄首相は9月の自民党総裁選に出馬できないとの見方が広がる中、首相最側近の木原誠二幹事長代理が出馬断念は「ないと思う」と発言した。マスコミ各社は一斉に報じましたが、はたして岸田首相は本当に出馬するのか。木原氏も内心では「出馬は無理」と思っているに違いない。けれども不出馬論が広がることを恐れる岸田再選に命じられて、不出馬論を打ち消したのであろう。
しかし、木原氏の発言をよく読むと「私の立場では、ないと思っている」と言っている。あえて「私の立場では」とことわったのは、「私だって、本当は出馬は困難と思っているが、首相最側近の立場でそんなことは口が裂けても言えない」というニュアンスをにじませたのだろう。やはり本心は「岸田首相の出馬が困難なことくらい、私だってわかっている」と言いたくて仕方がないのだ。
実は木原氏は6月28日時点では岸田首相の総裁選出馬について「わからない」と発言していた。最側近ならふつうは「出る」と強がるもの。ところが「わからない」と弱音を吐いたのだから、政界には一気に不出馬論が広がることになった。まさに最側近が自ら不出馬論に火をつけてしまったのだ。
木原氏としては正直に語ったつもりだが、首相最側近の発言としては軽率だった。岸田首相にひどく叱られたに違いない。
そこで今回の「(出馬断念は)ないと思う」発言に至ったのだが、今回も「私の立場では」とあえて付け加えたのは軽率と指摘されても仕方がない。不出馬論を完全に打ち消したことになっていないからである。
最側近なら「必ず出馬する」というくらい言い切らないと効果はない。岸田首相としては不満が残る発言だろう。逆に言えば、木原氏がそこまで断言できないほど、岸田首相は追い込まれているということだ。
9月の総裁選は「選挙の顔」を決める戦いとなる。岸田首相が6月解散に踏み切れなかった結果、来年秋の衆院任期満了まであと一年、どこかで解散総選挙を打たなければならない。
ここで岸田再選を認めれば、もはや岸田おろしの機会はなく、自民党の衆院議員たちは岸田首相と運命共同体になる。それはまっぴらゴメンだという空気が自民党を覆っている。
どう考えても、岸田首相が党内大勢の支持を取り付けるのは困難だ。現職首相が出馬して敗北するのはみっともない。だから土壇場で「勝てない」と判断して不出馬に追い込まれるのが通例である。
麻生氏は茂木氏を担ぐ意向とみられるが、岸田派の支持も固めば、主流三派(麻生、茂木、岸田)を結束を固めて総裁レースの主導権を握れる。岸田首相と喧嘩別れは避けたいということだ。
岸田総理ー茂木出馬表明の段取りがうまく進めば、主流3派の枠組みは維持されて茂木氏が一歩リードとなる。逆に岸田首相と麻生・茂木両氏の協議が決裂すれば、国民人気トップの石破茂氏が一気にリードする展開となろう。岸田首相の「辞め方」が当面の焦点である。