岸田文雄首相が11月28日、自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長に続いて、菅義偉前首相と相次いで会談した。内閣支持率が続落し、3閣僚が相次いで辞任に追い込まれる政権危機を踏まえ、体制立て直しへの協力を求めたとみられる。
岸田首相は最大派閥・清和会や公明党が及び腰な統一教会の被害者救済法案をめぐり、野党の立憲民主党と連携して自公立維4党協議で前へ進めようとした。その先には立憲と協調して消費税増税の議論を進め、清和会分裂を誘発する狙いもあった。
ところが岸田首相と立憲の急接近は、清和会や公明党ばかりではなく茂木幹事長ら党執行部の警戒感を招き、岸田包囲網が出来上がった。麻生派の山際大志郎経済再生相、岸田派の葉梨康弘法相、同じく岸田派の寺田稔総務相が失言や疑惑で相次いで更迭に追い込まれたのは、野党ばかりか自民党内からも辞任論が噴出したためだ(このあたりの詳細はプレジデントオンラインに寄稿した『菅政権のほうが良かった…「焦点は辞任がどれだけ早まるか」岸田首相に失望する人が増え続ける根本原因』参照)。
野党は閣僚辞任ドミノ4人目の標的として、安倍内閣で首相補佐官を務めた秋葉賢也復興相(茂木派)に集中砲火を浴びせている。秋葉氏は親族に事務所費を支払っていた問題、公設秘書に報酬を払って選挙運動させた公職選挙法違反疑惑、統一教会関連団体に会費を支払っていた問題、次男が秋葉氏のタスキをかけて街頭に立っていた影武者疑惑…など疑惑のオンパレードで、これまでの流れに照らすと更迭やむなしの状況だ。
しかし、寺田氏の後任に起用した松本剛明総務相にも政治資金パーティー券を会場収容人数を大幅に超えて販売していた問題が浮上。さらに岸田首相自身も選挙費用の収支報告書をめぐり宛名や但し書きのない領収書が大量に見つかった問題などを週刊文春に報道され、疑惑追及はさらに広がる様相をみせている。
ここで4人目として秋葉氏を更迭すれば、松本氏や首相自身への追及が加速するのは必至だ。
岸田内閣の閣僚になればマスコミから身辺を徹底的に洗われ、少しでも疑惑がみつかると集中砲火を浴びて晒し者にされ、挙句の果てに更迭されるとなれば、岸田内閣のポストに好んで就こうという政治家はいなくなり、内閣改造人事に踏み切っても入閣拒否が相次ぐ事態に追い込まれかねない。
岸田首相としては秋葉氏の疑惑が続々発覚したとしても徹底的に守り、辞任ドミノを打ち止めとして首相自身を含む他の閣僚への波及を食い止めたい思いなのだろう。そのためには麻生氏や茂木氏ら政権中枢に加え、非主流派のドンである菅氏の協力が欠かせないというわけだ。
岸田首相が自民党内に歩み寄ったことで、立憲との連携は大きく後退する可能性が高い。被害者救済問題は骨抜きになり、与党だけの賛成で成立させる可能性もある。立憲との大連立を視野に消費税増税の合意をめざす動きもしばらくは沈静化するだろう。
一方で、菅氏ら非主流派が岸田首相に協力するかどうかは怪しい。自民党内ではすでにポスト岸田をうかがうレースが水面化で始まっており、その動きが止まるかどうかは不透明だ。
茂木氏ら党執行部も立憲に接近する岸田首相への不信感を強め、ポスト岸田にむけて動き始めていた。ここで仕切り直しして岸田首相を支える挙党一致体制をつくりなおすのは簡単ではない。疑惑続出で内閣支持率がさらに下がり続ければ、来春の統一地方選にむけて「岸田おろし」が始まる可能性は十分にある。
まずは犬猿の仲である麻生氏と菅氏を和解させ、双方が納得のいく体制をつくることができるか。安倍政権でナンバー2争いを繰り広げて犬猿の仲として知られる首相経験者の二人の出方が焦点となる。
11月30日には自民党麻生派で麻生氏側近として知られる薗浦健太郎衆院議員(千葉5区、当選5回)の政治団体が、政治資金パーティー収入を約4000万円過少に記載していたとして、東京地検特捜部が薗浦氏の公設第一秘書を任意聴取したとマスコミ各社が一斉に報じた。
岸田政権の内部闘争が激化するのに伴い、東京地検特捜部の動きも激しくなっている。検察当局は決して「正義の味方」ではなく、つねに権力中枢の意向をうかがいながら捜査を展開するものだ。マスコミのスキャンダル報道が過熱するのも権力中枢が対立して双方のリーク合戦が激化している場合が多い。
最大派閥・清和会を率いてきた安倍晋三元首相が急逝して後継争いが激化し、岸田内閣の支持率は続落して閣僚辞任ドミノが止まらない。自民党に権力の空白が生じて派閥闘争が泥沼化する様相をみせている。