政治を斬る!

進次郎キラー コバホーク(小林鷹之)登場の背景 ①麻生vs菅の最終決戦、進次郎を担ぐ菅に対抗するため、麻生は候補者の大量乱立作戦へ転換、麻生派重鎮の甘利が小林を担ぐことを容認 ②安倍派の世代間闘争、進次郎を推す森喜朗に対抗し、創始者の孫・福田達夫は小林支持へ

自民党総裁選に一番乗りで出馬表明したのは、当選4回、49歳の小林鷹之衆院議員だった。あだなは「コバホーク」。東大卒、財務省出身の「学歴エリート」である。

自民党が安倍晋三氏のもとで政権復帰を果たした2012年総選挙で初当選した安倍チルドレン。当選同期は不祥事続きで「魔の4回生」と言われるが、小林氏は岸田政権発足時に当選3回で経済安保担当相に抜擢され、期待のプリンスだった。政治的立場は安倍氏に近い「右寄り」といわれる。

全国的な知名度はほとんどない。裏金事件で安倍派と並んで壊滅的な打撃を受け、二階俊博元幹事長が次期衆院選不出馬に追い込まれた二階派に所属してきた。

当初は「自民党の行方に危機感を抱いた若手議員たちが小林氏を担ぐ」として出馬論が報じられたが、永田町では泡沫候補とみられてきた。

ところが、この「コバホーク」が、本命に急浮上した小泉進次郎元環境相に最大の対抗馬と目されているのだ。

無名の若手政治家が、なぜ、いきなり、「進次郎キラー」として急浮上したのか。

今回の総裁選は、麻生太郎と菅義偉の元首相ふたりのキングメーカー争いである。

安倍政権時代に副総理権財務相と官房長官として主導権争いを繰り広げてきたふたりの権力闘争は、最初は二階氏と組んだ菅氏が自ら首相に就任して勝利し、次に麻生氏が安倍氏と組んで「菅おろし」に成功して岸田文雄氏を首相に担ぎ上げ、復権した。菅氏は岸田政権で非主流派に転じたが、ついに「岸田おろし」に成功。今回の総裁選でどちらが担ぐ候補が勝つのか、ここが最大の焦点である。

菅氏は前回総裁選で麻生派の河野太郎氏を担ぎ出し、岸田氏を担いだ麻生氏に敗れた。河野氏は当時、世論調査の国民人気でトップだったが、独断専行の政治姿勢が国会議員に敬遠され、惨敗した。今回はマイナンバーカード問題やワクチン問題で国民人気も凋落。菅氏は河野氏ではとても勝てないとみて、選択肢から外した。

菅氏の本命は小泉進次郎氏だ。ただ、父・純一郎元首相が強硬に反対していたため、次善の策として、国民人気トップの石破茂元幹事長を擁立する準備を進めていた。だが、石破氏は最大派閥・安倍派と第二派閥・麻生派に嫌われ、党内支持が広がらない。困っていたところへ、父・純一郎氏の態度が軟化し、進次郎氏が一転して出馬の方向に転じたのだ。

菅氏は石破氏を見切り、進次郎氏擁立に傾いている。進次郎氏は国民人気2位。石破氏と違って党内に敵は少ない。知名度が抜群で、朗らかで明るく、裏金事件のイメージを払拭するのにも最適だ。出馬すれば、いきなり本命に躍り出るとみられている。

これに対し、麻生氏は第三派閥を率いる腹心の茂木敏充幹事長を擁立するつもりだった。茂木氏は国民人気は1%にとどまり、有力候補の間では最下位だが、相手が石破氏であれば、反石破票をまとめて十分に勝てると踏んでいたのだ。

主流三派のうち、第二派閥の麻生からは前回対立した河野太郎デジタル担当相の出馬を、第三派閥からは茂木氏の出馬を、第四派閥の岸田派からは林芳正官房長官の出馬を容認し、乱戦に持ち込む。さらには麻生派重鎮の甘利明前幹事長が後押しする若手の小林氏(コバホーク)の出馬も水面下で支援し、決選投票でこの4陣営が2〜5位連合を組んで逆転しようというわけだ。

一方、四分五裂した最大派閥・安倍派は5人衆だった萩生田光一氏や創始者の孫である福田達夫氏らの主導権争いが続く。

萩生田氏は派閥オーナーである森喜朗元首相を後押しをうけ、今回の総裁選では菅氏と連携している。

これに対し、小林氏と同じ当選4回の福田氏は血統の良さから清和会再興の柱に期待する声が強く、中堅若手に支持がある。岸田政権発足当初は総務会長に抜擢されたこともあり、萩生田氏に比べ、麻生氏ら主流3派に近い立場をとってきた。

この福田氏が今回は当選同期の小林氏擁立で動いているのだ。小林氏の出馬会見には、福田氏ら安倍派の中堅若手が最も多く参加していた。

小林氏は、裏金事件で役職から外れた安倍派議員たちの処遇を見直すことも主張している。露骨な安倍派取り込み策だ。それで自民党の再生など進めることができるのだろうか。

森氏は進次郎氏を強く推している。進次郎vsコバホークの40代対決は、安倍派の世代間闘争の側面も強い。

最大派閥・安倍派の内部闘争、第二派閥・麻生派の対菅義偉対策。まさに派閥の論理のなかで、コバホークは進次郎キラーとして急浮上してきたのである。

小林氏が8月19日の出馬会見で最も強調したのは「脱派閥選挙を徹底する。派閥の支援は一切求めない」ことだった。しかし、小林氏出馬の背景をみると、いかに派閥間の権力闘争のなかで小林氏の出馬が実現したかが見えてくる。「自民党に危機感を抱いた若手たちが擁立した」という報道がいかに薄っぺらいかがわかるだろう。

総裁選は「脱派閥」の掛け声が飛び交うだろう。だがその内実は派閥闘争だ。

そもそも派閥は、総裁候補が総裁選に勝利するため子分を増やすことを狙って選挙・金・人事の面倒を見ることから発生した。今回の総裁選を機に、表向き解消したとされてきた派閥が復活するのは間違いない。これまでの派閥の親分の顔ぶれがかわり、派閥の再編が進むに過ぎない。「派閥解消」や「自民党は変わった」という言葉に惑わされてはいけない。

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