自民党の茂木敏充幹事長が「児童手当の所得制限撤廃」を表明したことに対して、立憲民主党の岡田克也幹事長が「民主党政権時代にあなた達は何を言っていたのか問いたい」と反論している。
2009年に発足した民主党政権は当初、所得制限のない「子ども手当」を実施していたが、2010年参院選に敗北して与野党ねじれ国会になったため、野党だった自民党の要求に応じて「苦渋の決断」で所得制限を受け入れたというのが岡田氏の主張である。
私は朝日新聞政治部デスクとして民主党政権の取材を陣頭指揮していたが、その立場から振り返ると、岡田氏の指摘は半分は正しく、半分は欠けている。民主党が屈したのは自民党だけではない。財務省にも屈したのだ。
民主党が2009年衆院選のマニフェストの目玉政策に掲げたのは「月額26,000円の子ども手当を全員に支給する」ことだった。2010年参院選で衆院選マニフェストに掲げていなかった消費税増税をいきなり打ち上げて惨敗したのだが、それより以前に「財源が確保できない」という理由で子ども手当の満額支給を断念し、月額13,000円に下方修正していたのである。
つまり衆参国会がねじれて自民党の協力なしには議案が通らないという状況になる前から、財務省が唱える緊縮財政論(財政収支均衡を重視する立場)に従って子ども手当の満額支給をあきらめていたのだ。さらに財政規律重視の立場から子ども手当実施と引き換えに所得税や住民税の計算における「年少扶養控除」を廃止した。「子どもよりも財務省」を優先する姿勢は当時から鮮明だったのである。
これは民主党政権が子ども支援を最優先するという政治理念よりも、財務省が唱える緊縮財政論を重視していたことを物語る事実といってよい。子ども支援を国家の最重要政策に掲げて国債を大胆に発行すれば、公約通りに月額26,000円を支給することは十分に可能だった(その後のコロナ対策などではさらに巨額の国債を発行したではないか!)。
民主党政権(消費税増税の3党合意に踏み切った野田内閣)の副総理だった岡田氏や財務相だった安住淳氏が牛耳る今の立憲民主党は、財務省に同調する強力な緊縮財政派だ。子ども支援よりも財政規律を重視する政治姿勢は変わっていないとみていい。れいわ新選組などが唱える積極財政論(誰一人置き去りにしないという政治理念のためなら大胆に国債を発行する立場)を毛嫌いするのはその証左であろう。
自民党安倍派が主張するように軍事費増大のために国債を大量発行してはいけない。それは「財政が破綻するから」ではなく「軍事的緊張を高めて戦争を誘発するから」である。しかし国民生活を守るために本当に必要な政策には惜しむことなく大胆に国債発行すればいい。それが積極財政論である。
積極財政に反対するのは、緊縮財政によって優位に立つ既得権益者たち(すでに豊かな者たちはデフレのほうが経済的優位を維持できる!)であり、予算配分権によって政治的影響力を維持している財務省である。いまの岸田政権も立憲民主党も財務省に同調し、子ども支援をはじめ庶民の暮らしを下支えする財政出動よりも、財政規律を守って富裕層の既得権益と経済的優位を保護する緊縮政策を優先している点において変わりはない。
この理屈を突き詰めると、岸田政権も立憲民主党も「所得制限撤廃」の財源として消費税増税が必要だとそのうちに言い出すだろう。先に防衛力強化を主張し、あとから防衛増税(法人税、所得税、たばこ税の増税)を打ち上げたのと同じである。
子ども支援という政策だけで政党を評価してはいけない。財源論より子ども支援を優先すると約束してこそ、はじめて本物なのだ。