9月の自民党総裁選は本命不在の乱戦模様だ。
国民人気トップの石破茂元幹事長(世論調査では20%台)は最大派閥・安倍派を率いてきた安倍晋三元首相と第二派閥・麻生派の麻生太郎副総裁に嫌われてきたため、国会議員の支持がかなり弱い。
一方、麻生氏に後押しを受け、自らも第三派閥を率いてきた茂木敏充幹事長は、派閥力学では優位に立つが、世論調査では1%に低迷し、党内有力者では最下位だ。
今のところ、麻生氏は茂木氏、菅義偉前首相は石破氏を担ぐとみられているが、どちらも決定力に欠ける。このほか河野太郎デジタル担当相や高市早苗経済安保担当相、小林鷹之前経済安保担当相も出馬に意欲をみせているが、推薦人20人を確保できるかどうかも見通せない情勢だ。
だれが勝っても、衆院任期は残り1年。新総裁のもとで解散総選挙が行われる可能性が極めて高い。自民党の裏金事件への批判を吹き飛ばす力は、石破氏にも茂木氏にもなさそうだ(もちろん岸田文雄首相にもない)。だからこそ「本命不在」の総裁レースになっているのである。
そこで期待が高まっているのが、小泉進次郎元環境相である。
東京都知事選で2位に躍進した石丸伸二氏がテレビ番組でみせた噛み合わないやりとりが「石丸構文」と言われるなか、進次郎氏のやりとりは「進次郎構文」と呼ばれて再注目された。石丸構文は「中身がなくてつまらない」が進次郎構文は「中身はないが面白い」と評するSNS投稿があったが、私は言い得て妙だと思った。
進次郎氏はたしかに中身はない。それでも朗らかで愛嬌はある。裏金事件への批判を打ち消し、自民党のイメージを刷新してくれるのは進次郎氏しかいないという期待感がじわりと広がっているのだ。
非主流派のドンである菅氏の本命も、実は石破氏ではなく、進次郎氏とみられている。前回の総裁選では河野氏を担ぎ、麻生氏が担いだ岸田氏に敗れた。河野氏はマイナンバーカード問題で失速し、今回は担ぎにくい。石破氏は国民人気は高くても党内人気は低く、勝てるかどうかわからない。
これに対し、進次郎氏は父・純一郎元首相が「50歳までは首相を支えろ(進次郎氏は43歳)。今は動くな」と出馬に反対しているものの、国民人気で石破氏に次ぐ2位につけている。石破氏も茂木氏も決め手を欠くなかで土壇場のサプライズで出馬表明すれば、一気に支持が広がる気配は確かにある。
1年以内に行われる総選挙の顔としても、石破氏や茂木氏よりは進次郎氏のほうがはるかに見栄えが良い。
そうなると、注目を集めてくるのが、父・純一郎氏だ。
純一郎氏は7月中旬、森喜朗元首相や中川秀直元官房長官、ジャーナリストの田原総一朗氏らと会食した。田原氏が明らかにしたところ、純一郎氏は森氏や中川氏から総裁選について「絶対、進次郎氏のほうがよい」と迫られ、「ここまで言われるのなら、本人がやると言ったら反対はしない」と答えたという。
もちろん純一郎氏の真意はわからない。現職首相時代も森氏のアドバイスにはほとんど耳を貸さなかった。最終的には自分の直感で決めるのだろう。とはいえ、進次郎氏の出馬を全否定しなかったということは、情勢によっては出馬の背中を押すこともありうるとみておいたほうがいい。
本命不在の総裁選、最後に急浮上するのは進次郎氏という展開は、あながち否定できないだろう。