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自民党総裁選は小泉進次郎の出馬説急浮上で情勢が一変、岸田首相も茂木幹事長も石破元幹事長も進次郎の動向を固唾を飲んで見守る展開に

岸田文雄首相が9月の自民党総裁選の不出馬に追い込まれた大きな要因の一つに、小泉進次郎元環境相の出馬説が急浮上したことがある。国民人気はトップでも自民党内で嫌われている石破茂元幹事長が相手なら競り勝てると読んでいたが、国民人気が高く党内に敵の少ない進次郎氏が相手になると劣勢は免れないと考えたようだ。

進次郎氏の父純一郎元首相はこれまで「50歳までは時の首相を支えろ。今は動くな」と言いつけ、今回の総裁選出馬に反対の姿勢を示していると報じられてきた。実際、盟友の山﨑拓元幹事長らとの会食に石破氏を招待した際も進次郎氏は出馬しないという見方を伝え、石破氏の背中を押していた。

ところがその後、森喜朗元首相やジャーナリストの田原総一朗氏らの会食で、「進次郎氏が出馬するしかない」と迫られると、「そこまで言うのなら、本人が出馬すると言えば反対はしない」と出馬容認に転じた。

これが報じられると、マスコミ各社は進次郎氏の動向を追いかけるようになり、時の人に急浮上。進次郎氏は8月10日のネット番組で「今、43歳だ。仕事上の判断を父に仰ぐだろうか。歩みを進めるも引くも自分で決める」と語り、父の言いなりであるとの観測を否定したが、進次郎氏は父の指図通りの動くとの見方は消えない。

何しろ父親は劇場型政治の天才である。「進次郎は出ない、出ない」と言い続け、土壇場で急転直下、進次郎を担ぎ出し、一気に世論の期待を引き寄せる小泉劇場の再来を予想する声が広がり始めた。

進次郎氏が出馬すれば、総裁選の情勢は一変する。

今回の総裁選は、麻生太郎副総裁と菅義偉前首相のキングメーカー争いである。

岸田首相が不出馬を表明し、進次郎氏も出馬しない場合は、麻生氏は茂木敏充幹事長を担ぐ考えだ。麻生、茂木、岸田の主流3派を軸に支持を広げ、菅氏が擁立を検討している石破氏に対抗する戦略である。

石破氏は国民人気こそトップだが、国会議員に支持が広がっていない。相手が石破氏なら、国民人気が低い茂木氏でも十分に勝てると踏んでいるのだ。

ところが、進次郎氏が出馬を決意し、菅氏に担がれる構図になれば、状況は一変する。進次郎氏は石破氏に続く国民人気2位のうえ、党内では敵が少なく、国会議員投票でも主流3派に批判的な票を一手に吸い寄せる可能性が高い。麻生氏は総裁選戦略の抜本的見直しを迫られるだろう。

さらに進次郎氏の出馬で窮地に立つのは石破氏である。

石破氏は安倍政権時代に干されて石破派解散に追い込まれ、党内基盤は弱く、今回の非主流派のドンである菅氏の助けなしには推薦人20人の確保もままならない状況だ。

そもそも菅氏の本命は進次郎氏だった。父純一郎氏の反対で進次郎氏の出馬は困難と見て、菅氏は次善の策として石破氏擁立を検討してきた。進次郎氏が出馬すれば、石破氏は用無しとなる。

石破氏は父純一郎氏と会談して進次郎氏の出馬はないとの感触を得た。そこで総裁選出馬に強い意欲を示し、マスコミ出演も重ねて総裁レースの先頭を走ってきたが、純一郎氏に梯子を外されて進次郎氏が出馬するとなれば一気に話題をさらわれ、失速するのは間違いない。

43歳の進次郎氏の動向を総裁候補たちも重鎮たちも固唾を飲んで見守っている。それが自民党の現状だ。


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