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「進次郎総理」と「農協解散」──再び始まる“小泉劇場”の再演か

農協改革を掲げる小泉進次郎農水大臣に、自民党の反主流派が急接近している。彼らが描くのは、「石破退陣→進次郎総理→農協解散→衆参ダブル選挙」という、政界を揺るがす“超ド級のウルトラC”である。

かつて父・純一郎元首相が「郵政解散」で国民的人気を得た“小泉劇場”の再演を狙うこの構想は、果たして現実味があるのだろうか。

森山農水族vs進次郎──「コメ増産」から始まる対立

構図がはっきりしたのは、小泉進次郎が「脱減反によるコメ増産」に踏み込んだ瞬間だった。備蓄米の放出による米価抑制までは容認していた農水族も、コメの増産には断固反対の姿勢を示す。米価の下落は農協の経営を直撃し、農協・農水省・農水族という「農政トライアングル」の利権構造が崩れかねないからだ。

進次郎にとっては絶好の展開だった。敵が明確になればなるほど、対決構図は鮮明になり、メディアは盛り上がる。農水族のドン・森山裕幹事長が前面に出れば、対立の構図はまさに“小泉劇場”そのもの。

しかもこの動きに乗じようとしているのが、自民党内の反主流派だ。

石破政権の終焉を仕掛ける反主流派の思惑

麻生太郎元首相、茂木敏充前幹事長を中心とした反主流派は、立憲民主党との大連立を模索する森山幹事長に強い警戒感を持っている。

当初は、国民民主党の玉木雄一郎を総理候補に、自公国連立政権の構想を描いていたが、国民の支持率が伸び悩み、構想は行き詰まっていた。

一方、旧安倍派も高市早苗氏や小林鷹之氏の擁立を検討していたが、過半数確保の算段が立たず、動けずにいた。

そんななか、進次郎の登場で風向きが変わった。世論の関心は一気に「進次郎vs農水族」へと集中し、政界の“主役交代”を思わせる空気が広がっている。

反主流派にとっては、石破政権を退陣に追い込み、進次郎を総理に押し上げ、農協改革を旗印に衆参同日選に打って出る──というシナリオが、唯一の突破口になりつつある。

「石破おろし」の壁──森山との蜜月と不信任案封じ

しかし、このシナリオの第一関門は「石破おろし」だ。

石破総理は、少数与党の運営を森山幹事長に依存している。森山氏は維新の教育政策や立憲の年金改革を受け入れ、与野党の協調を取り付けてきた。つまり「森山なくして石破政権は成立しない」のだ。

さらに森山幹事長は、石破総理に「参院選まで辞めるな」と釘を刺している。参院選で自民党が議席を減らしても、立憲と連立を組めば過半数は確保できる。この“選挙後の大連立”こそが、森山氏にとっての最終目標であり、「影の総理」としての影響力を維持する道なのだ。

立憲の野田代表も、現時点で内閣不信任案の提出に動く気配はない。反主流派が石破退陣に追い込むには、森山氏との関係を断ち切らせる必要がある。

その突破口となりうるのが、石破総理が進次郎の「コメ増産方針」に理解を示しているという点だ。進次郎を担ぐ反主流派が「退陣と引き換えに政権内での処遇を保証する」密約を提示できれば、石破総理が動く可能性も出てくる。

総理就任のカギは「連立」と「タイミング」

石破総理が退陣し、進次郎が自民党総裁選で勝利しても、それだけで総理にはなれない。少数与党である現状では、国会での総理指名において野党の一部を取り込む必要がある。

立憲との連携は進次郎が否定しており、現実的なパートナーは維新か国民民主党となる。維新には大阪選挙区での候補取り下げ、国民には減税政策の一部受け入れを提示すれば、衆参ダブル選直前のタイミングで連立に応じる可能性は高まる。

つまり、進次郎が総裁に就任しさえすれば、連立工作次第では衆院解散に持ち込むことができるのだ。ここまで来れば「農協解散・衆参ダブル選挙」への道は、一気に現実味を帯びてくる。

進次郎政権が突きつける日本の進路

進次郎内閣が誕生すれば、「農協解体」を旗印にした“小泉劇場”が再び始まる。

森山幹事長ら農水族は排除され、農協・農水省の利権構造に大きなメスが入るだろう。

だが、気をつけなければならないのは、父・純一郎が行った郵政民営化の“後遺症”だ。郵貯マネーの民営化は、地方の郵便局ネットワークを弱体化させ、結果的に海外資本への資金流出を招いたとの批判もある。

同様のことが、農協改革でも起こるのではないか。戸別所得補償や農家保護の政策が伴わなければ、地方の農業基盤がさらに弱体化する恐れがある。

一方、石破総理が留任し、参院選後に森山・野田ラインでの大連立が実現した場合には、財政規律重視の旗のもと、消費税増税の議論が加速するだろう。

農協改革か、消費税増税か──日本の未来を左右する選択が、目の前に迫っている。