自民党総裁選は小泉進次郎氏の出馬が確実な情勢になり、対決構図が見えてきた。菅義偉前首相は麻生太郎副総裁とのキングメーカー争いに勝つため、石破茂元幹事長を見捨て、進次郎氏を全面支援する意向だ。麻生氏はこれに対抗し、候補者を大量に乱立させ、決選投票で2・3・4・5位連合を画策して逆転を狙う戦略だ。
小泉進次郎氏の父・小泉純一郎元首相に非常に近い関係者によると、純一郎氏が43歳の息子・進次郎氏に「50歳までは時の首相を支えろ。今は動くな」と厳命してきたことについて、この関係者は純一郎氏に「50歳まで待っていたら、自民党はなくなっていますよ」と言って、進次郎出馬を促した。
純一郎氏は「そうだよな、そうだよな」と応じたという。そのうえで「出る出るといって20人の推薦人が集まらなかったら政治生命が終わる」と言う一方、「20人の推薦人が集まっているのに出ないというのもありえない」と語ったという。
菅氏はもともと進次郎氏擁立を目指していたが、父純一郎氏が反対していたため、次善の策として石破氏擁立を検討してきた。進次郎氏が出馬する意向を固めれば、推薦人20人を確保するのは簡単だ。
純一郎氏はそれを承知で「推薦人20人が集まったら出馬すべきだ」という考えを示したのだから、事実上の出馬容認といえる。
この関係者は「菅氏が推薦人を20人集めた時点で、出馬表明」と受け止めた。さらに進次郎自身にも確認したが、かなり前から出馬の準備を進めてきたと感じたという。
進次郎氏が出馬すれば、菅氏に担がれることを期待していた石破氏は一転して厳しくなる。推薦人20人を確保に四苦八苦するうえ、仮に確保して出馬にこぎつけたとしても、サプライズ出馬で勢いづく進次郎氏に党員投票の多くも流れる可能性が高い。
無派閥の高市早苗氏や野田聖子氏も進次郎氏が出馬する場合は推薦人20人の確保に苦戦しそうだ。
進次郎氏は総裁レース本命に急浮上しつつあり、キングメーカー争いでは菅氏がリードした格好だ。
麻生氏はどう対抗するのか。
麻生氏は、菅氏が石破氏を担ぐのなら、茂木敏充幹事長で勝てるとみていた。石破氏は国民人気は一位で、党員投票で先行する可能性が高い。しかし最大派閥の安倍派や第二派閥の麻生派には石破アレルギーが強く、国会議員票では劣勢だ。党員に投票権がなく、国会議員と都道府県連代表だけが投票する決選投票にさえ持ち込めば十分に逆転は可能とみていた。
しかし進次郎氏が相手ならそう簡単には勝てない。
進次郎氏は石破氏に次ぐ国民人気2位だが、党内に敵が少なく、逆に「選挙の顔」としての期待は高く、国会議員票もかなり獲得することが予想されるからだ。むしろ茂木氏のほうが国会議員には敵が多いともいえる。
麻生氏は戦略の転換を迫られた。そこで練り上げているのは、候補者の乱立作戦だ。できる限り候補者を多く出馬させ、第一回投票で進次郎氏が過半数を獲得することを防ぎ、決選投票で進次郎氏以外の陣営が「進次郎包囲網」をつくって逆転するシナリオである。
マスコミ報道によると、麻生氏は茂木氏から支持を求められ、麻生派には河野太郎氏がいるとしたうえで、麻生派として茂木氏を支持することはできないと答えたという。
これは茂木氏を見捨てたというより、茂木氏は茂木派代表として出馬し、麻生派としては河野氏を擁立し、決選投票で連携しようと言う「乱立作戦」の一貫だろう。主流三派の残りひとつ、岸田派からもナンバー2の林芳正官房長官の出馬を促すのではないか。さらに若手代表として名の上がる小林鷹之氏の出馬も側面支援し、とにかく進次郎氏が第一回投票で過半数を制することを阻止する狙いだ。
つまり、
麻生派は河野太郎氏
茂木派は茂木敏充氏
岸田派は林芳正氏
若手代表として小林鷹之氏
というように乱戦に持ち込んで、決選投票では2〜5位連合を実現させ、1位の進次郎氏を逆転する筋書きである。
自民党内では、このシナリオの場合、河野氏や茂木氏は意外に伸び悩み、2位に食い込むのは小林氏ではないかとの見方もある。小林氏は49歳。河野氏や茂木氏には反発が強いものの、未知数の小林氏には抵抗が少ないからだ。43歳の進次郎氏との40代決選投票になったほうが世論を引き寄せられるとの指摘もある。
だが、麻生氏の構想はやや無理筋ではないか。
総選挙を控え、総裁選は「選挙の顔」を決める戦いとなる。国会議員心理としてはやはり知名度が高い進次郎氏への期待が高まるだろう。
進次郎政権が誕生すれば、ボロが出る前にただちに10月解散・総選挙となる可能性が高い。そのほうが国会議員たちは自らの当選確率があがると踏んでいるのではないか。
さらに麻生氏が主導して派閥間の多数派工作が展開され、その結果、2〜5位連合で新政権が誕生しても、旧態依然たる派閥政治に世論が反発して支持率があがらない恐れがある。
むしろ麻生氏が敗北して進次郎氏が勝利したほうが「自民党は変わった」とアピールしやすい。
小泉純一郎氏は首相時代、中曽根康弘と宮沢喜一の元首相二人に引退を迫った。小泉改革に反対する勢力を「抵抗勢力」と呼び、徹底的に干し上げた。
進次郎氏に立ちはだかる「抵抗勢力」のドンは、派閥解消に反対する麻生氏であろう。進次郎氏も首相に就任したらただちに10月解散を断行し、すでに衆院選不出馬を表明している85歳の二階俊博元幹事長に続いて83歳の麻生氏にも政界引退を勧告し、新しい自民党を印象づける作戦に出るのではないか。
麻生氏にとってはまさに生き残りをかけた総裁選となる。