高市政権が本格始動した今国会の予算委員会で、4つの質疑が大きな話題を呼んだ。
立憲民主党の蓮舫、国民民主党の榛葉、公明党の岡本、参政党の神谷。
いずれも立場も背景もまったく違う4人が、高市総理の前に次々と立ちはだかった。
共通するのは、高市人気の源泉である「ストレートな答弁」をどう崩し、あるいはどう利用するかを、それぞれが計算しながら質疑を組み立ててきた点だ。
今回は、この4連戦の表の攻防だけでなく、背後に潜む政局の思惑まで、台本の流れに沿って読み解きたい。
■第一戦:立憲・蓮舫——女性政治家の「初対決」は静かなジャブ戦
まずは蓮舫。昨年の都知事選での大敗から参院選で国政復帰し、リベラル派の象徴的存在だ。
高市支持層と蓮舫支持層は、まさに水と油。その二人が国会で向き合うのは今回が初めてで、注目度は抜群だった。
蓮舫は、冒頭から意外な“エール”で切り込んだ。
かつて深夜番組で共演した縁を引き合いに出し、「心からがんばってほしい」と語りかける。
高市も「ありがとうございます」と笑顔で応じたが、その後のコメントからは、蓮舫に寄り過ぎるわけにはいかないという計算が透けた。支持層の反応を強く意識しているのだ。
しかし蓮舫は次の瞬間、明確に攻めへ転じる。
焦点となったのは、旧安倍派の裏金問題で名が挙がる佐藤参院議員の官房副長官起用だ。「選挙を経ていない人物をなぜ登用したのか」。
高市は「耳に痛いことも直言してくれる存在」と全面的に信頼を示し、任命撤回を促す蓮舫の提案を「白紙にするつもりはございません」と一刀両断した。
蓮舫は手の内を探る“ジャブ戦”。
高市も全面対決は避け、次回に含みを残す。
女性政治家同士の本格対決は、次の機会に持ち越しとなった。
■第二戦:国民・榛葉——「最恐コンビ」へのラブコール
2番手は国民民主党の榛葉幹事長だ。
「高市・片山は最強……いや最恐コンビ」と、ユーモアを交えて切り出すと、場内が和んだ。
高市も「恐ろしいほうでしたか」と笑い、軽く返す。冒頭から“良好な関係演出”が漂った質疑だった。
榛葉は麻生氏と近しい存在で、本来なら高市政権との連携を狙いたい立場だが、維新に一歩先んじられた。
それでも望みは捨てていない。台本では「本命は高市自民」と明確ににじむ。
さらに、地元静岡が重なる片山さつき財務相も榛葉に呼吸を合わせ、「私は総理にひたすらついて参ります」と総理を持ち上げる。
榛葉が自動車関連税をめぐって「走行距離課税はありませんよね?」と釘を刺すと、片山は「政府として具体的に検討していない」と明言。
榛葉は「これで今日は寝れそうです」と拍手し、質疑を締めた。
完全に“蜜月アピール”である。
連立参加をめぐる国民民主党のポジション取りは、今後の政局の大きな焦点となる。
■第三戦:公明・岡本——麻生への対抗心をにじませつつ、接点を探る
続いては、公明・岡本政調会長の番だ。
公明党は本音では自公連立を維持したかったが、麻生氏が主導した“公明切り”で距離が広がった。
その結果、公明は立憲との接近を強めるなど、与野党の境界が揺らいでいる。
そうした背景のなか、岡本は穏やかな空気で質疑を開始した。
高市総理を「町場が明るくなった」と持ち上げつつ、「恒久財源5兆円があれば何に使うか」と柔らかい変化球を投げる。
高市は長く考え、「自民党に怒られるかもしれませんが…」と前置きしたうえで、食料品の消費税をゼロにする選択肢を口にした。
自民党総裁が“自民党に怒られる”と言うのは不可思議だが、麻生氏の財政観を意識すれば納得がいく。
高市の率直な答弁は人気の理由だが、同時に麻生との溝も浮かび上がる。
岡本がこの回答を引き出したのは、まさに狙い通りだろう。
公明にとっての“本当の敵”は高市ではなく、彼らを切り捨てた麻生。
質問を通じ、麻生との関係に楔を打ちつつ、高市との接点も確保する。
そんな微妙な距離感が見えた。
■第四戦:参政・神谷——初々しさと緊迫感が交錯した質疑
最後は、参政党の神谷代表。
参院選で「日本人ファースト」を掲げて躍進し、今回が初の本格的な長時間質疑だ。
神谷はまず、「皮肉は言わずストレートに聞く」と宣言し、高市の答弁姿勢を評価。
反グローバリズムの視点から世界情勢を語り、「参政党も総理も極右と書かれることがある」と触れると、高市が「巻き込まないでください」と苦笑で返す一幕もあった。
しかし空気は一転する。
神谷がSNS規制の問題に踏み込むと、場は緊張した。
コロナ対策時の“動画削除”への不満、虚偽情報規制の難しさ、自身への誹謗中傷。
さらに、自民党の前デジタル大臣・平氏が示唆した「参政党へのロシア関与説」を根拠なしと批判するなど、踏み込んだ指摘が続く。
これに対し、高市は一般論から逸脱しない慎重な答弁を続けた。
与党として、参政党が潜在的ライバルに育ちつつある——そんな空気が滲む時間だった。
参政党は党首討論に立てる条件をクリアし、今後は国会論戦の中心に躍り出る。
高市×神谷の対決は、次の国会の大きな見どころとなるだろう。
■4連戦が映す“政局の地図”
蓮舫、榛葉、岡本、神谷。
4者4様だが、いずれも高市総理の「ストレート答弁」が軸となった。
そして、その答弁が、4者それぞれの政局的思惑を照らし出した。
・蓮舫は次戦を見据えた“探り”
・榛葉は連立入りへのアピール
・岡本は麻生包囲網の一環
・神谷は参政党の存在感示しと与党への牽制
予算委員会は単なる政策論争ではない。
政権の未来、政党間の力学、世論の潮流——すべてが交差する舞台である。
今回の4連戦は、それを象徴する一幕だった。