政治を斬る!

安倍氏の国葬で迷走する「凡庸な優等生」泉健太・立憲民主党代表の限界

岸田政権が安倍晋三元首相の国葬を推し進める理由は、安倍氏を神格化することで強固な安倍支持層を慰撫しつつ、国葬が終われば一転して政権中枢から安倍シンパを一掃するための環境整備だと私はみている。

安倍氏が突然退場し、唯一のキングメーカーとなった麻生太郎元首相の悲願は、最大派閥・清和会(安倍派)を弱体化させ、宏池会を源流とする麻生派・岸田派・谷垣グループが再結集する「大宏池会」を旗揚げして最大派閥に躍り出ること。そのために永田町・霞ヶ関の容赦ない人事を断行していくだろう。その際の反撃をかわすためにもあらかじめ安倍氏を国葬で祭り上げておく必要があるというわけだ。

このあたりの政局の読み解きについては7月19日発売のサンデー毎日『最大派閥「清和会」の不協和音』やニュースソクラ『突然の安倍退場 霞ヶ関の「傍流人事」は消える』で詳しく解説したのでご覧いただきたい。

今回ここで問いたいのは、野党第一党である立憲民主党の国葬に対する煮え切らない態度についてだ。ここにこの党がいつまで経っても冴えず、自民党政権を楽々と延命させている理由が凝縮されていると思うからである。

岸田文雄首相が国葬実施を発表した7月14日、立憲の泉健太代表は「国葬については、その性質から厳粛におこなうものであり、元総理のご冥福を祈りつつ、静かに見守りたい」との談話を発表した。国葬実施を容認する意思表明といっていい。

これに対し、立憲支持層からも批判が噴出。すると泉代表は翌日、ツイッターであっけなく態度を修正したのである。

修正といっても、反対に転じたわけではない。「岸田総理が政治的に(国葬実施の決定を)急ぎ過ぎた」「追悼のあり方を熟考すべき」とし、いわば「これからみんなでじっくり議論していきましょう」という立場に軌道修正したわけだ。

この煮え切らない姿勢は、立憲のお家芸である。憲法改正にしても、防衛力強化にしても、意見が割れるテーマについてはいつも結論を先送りし、どっちにもいい顔をして誤魔化す。

泉代表が立憲のリーダーに選ばれた昨年の代表選。候補者4人による論戦は正直、見るに堪えなかった。自民党から政権を奪い取る野党第一党としての強い覚悟も具体的なビジョンもまったく示されず、候補者4人がいかに自分は「良い子ちゃん」なのかを競い合う、まるで学芸会のような討論会だったのだ。あの代表選を見て、この党が政権を奪うリアリティーを感じた人はほとんどいなかっただろう。

その学芸会を制した泉代表は、凡庸な優等生の典型のようなリーダーである。批判されたらすぐにバランスをとり、できるだけ敵をつくらないように腐心する。誰からも嫌われないように振る舞うことが身に染み付いている。これでは戦う野党第一党のリーダーは務まらない。万が一彼が総理になっても、日本の政治は何も変わらないだろう。自民党が政権を奪われる気がしないのも当然だ。

泉代表が一夜にして態度を修正したことや、どっちつかずの態度に終始していること以上に、実は深刻な問題がある。それは政治家として絶対に必要な政治信念というものがまったく感じられないことだ。

そもそもなぜ国葬に賛成なのか(あるいは反対なのか)。国葬というものをどう考えているのか。その本質的な洞察なしに、世論の空気をみながら賛否を安易に口にするから、コロコロ立場を変えることになるのである。

私は国葬に反対だ。なぜなら、国葬は安倍氏を追悼することを全国民に強要するものだからである。

もちろん安倍氏を慕う人々が追悼することを否定しているわけではないし、それを希望する人々のために自民党や内閣が舞台を提供すること(例えば自民党・内閣合同葬のような形式)はあっていい。

しかし国葬というものは国家をあげて追悼するということだ。安倍氏の行ってきた強権的な政治に反発してきた人々、アベノミクスによる格差拡大で貧困を強いられている人々、安倍氏の権力私物化に怒ってきた人々の気持ちを無視して、国家をあげて安倍氏の追悼を強引に実施するということである。これは社会の分断を招くばかりか、憲法が定めた「思想信条の自由」を侵す重大な問題だ。

立憲民主党は「立憲主義」を重視する政党ではないのか。それならば追悼を強要する国葬というありようには断固として反対しなければおかしい。その根幹の政治判断について、泉代表はフラついているのである。そのような政党や党首のことを信用できるはずがない。

以上、泉代表の批判を書き連ねたが、この薄っぺらさは何も泉代表に限ったことではない。この党を巣食う全体的な空気である。だからこそ泉代表がリーダーに選ばれたのだ。ほんとうに弱い立場の人々、マイノリティーの人々に寄り添うのではなく、しょせんは自民党と同じ上級国民の代弁者に思えてしまう。だから事情さえ整えば与党入りしてしまう議員が続出するのだ。

立憲民主党は一刻も早く解党し、しっかりとした政治理念をもった旗印のもとで野党再編が行われ、自民党にまともに対抗できる強い野党第一党が実現することを望む。それが政治再生への第一歩であろう。

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