今国会最大の焦点である政治資金規正法の改正をめぐり、公明党が自民党の修正案を受け入れて賛成に転じた。当初は自民党案を不十分として与党協議を決裂させ、自民党が改正案を単独で国会に提出する異例の展開をたどっていた。
ここにきて自民党の修正を一転して受け入れたのはなぜか。改正案の中身よりも6月解散を見送る確約を岸田首相から取れたことが最大の理由ではないかと私はみている。
そもそも自民党の改正案は、政策活動費の全面公開を渋り、「選挙関係費」「組織活動費」といった項目ごとに金額を公開することにとどまる骨抜き案だった。これでは「政党の機密費」と言われる政策活動費の使徒はブラックボックスのままだ。適正に使われているのか、公開内容が正しいのかを外部からチェックすることもできない。
自民党は改正案を3年後に見直す「見直し規定」も盛り込んだが、3年後に抜本改革が進むかは当てにはならない。世論の批判が高まるいま実現できないものが3年後に実現できるとはとても思えない。
最大の対立点は、政治資金パーティー券の購入者の公開基準だった。現在は20万円超だが、公明党は5万円超まで引き下げるよう主張。10万円超にとどめる自民党との隔たりが強調されていた。
だが、参院の議席は自民党単独で過半数に届いていない以上、公明党の賛成なしでは改正案を成立させることはできない。岸田首相は「今国会の成立」を約束している以上、公明党に譲歩しなければならないのは最初から見えていたことである。
自公合意自体は、公明党が賛成に転じる環境を整えるために、自民党が当初から譲歩する余地をつくっておき、土壇場で公明党に歩み寄る国対政治の結果だろう。
むしろ公明党が賛成に転じた本当の理由は、6月解散見送りについて岸田首相側から確約が取れたことにあるとみていい。
公明党が目下、最も重視しているのは①不人気の岸田首相のもとでの解散総選挙を断固阻止②解散は9月の自民党総裁選で新しい首相が選出された後の10月実施、の二点である。これは、9月総裁選の前に解散総選挙を断行して総裁再選の流れをつくる岸田首相の戦略と真っ向から対立する。
公明党が政治資金規正法の改正をめぐる自公協議を決裂させたのも、衆院3補選や静岡県知事選で自民候補の支援の手を抜いたのも、すべては岸田首相の解散権を縛るためだった。
4月の衆院3補選に続いて5月26日投開票の静岡県知事選でも自民党は敗北し、4連敗となった。これを受けて岸田首相もさすがに6月解散は諦めたのだろう。静岡県知事選の結果が判明した26日深夜以降に、公明党側に6月解散見送りに意向を伝達し、その代わりに政治資金規正法の今国会成立への協力を求めたのではなかろうか。
公明党は6月解散はないとの確証を得て、政治資金規正法改正の自民修正案を受け入れ、今国会成立に協力する姿勢に転じたとみられる。
その際、岸田首相が6月23日までの今国会を大幅延長して、7月解散の芽を残すことにも反対する意向を伝えた可能性が高い。つまり、6月23日の会期末までの法改正に協力するかわりに、国会は6月で閉じて、7月解散の芽を摘んでしまおうというわけだ。
岸田首相もこれに応じ、総裁選前の解散をあきらめ、党内のライバルを抱き込んだり蹴落としたりして総裁選を勝ち抜く戦略に転じたとみられる。
国会が閉会すれば、岸田首相は総裁選を乗り切るために内閣改造・党役員人事に踏み切るのか、仮にその決意を固めたとしてもポスト岸田を狙うライバルたちが応じるのか、自民党内の駆け引きに政局の焦点は移る。