政治を斬る!

公明党の豹変が示す政局の行方――「減税・現金・赤字国債」三拍子そろった異例の大転換

永田町の古くからの格言に、こんなものがあります。「政局を知りたければ、公明党を見よ」。
この言葉の意味が、いま再び浮かび上がっています。なぜなら、これまで財政規律を重んじてきた公明党が、「減税も」「現金給付も」「赤字国債も」と、にわかにバラマキ路線へと大きく舵を切ったからです。

表向きは、トランプ関税による株価急落への対策としての補正予算。ですが、その中身をめぐって、自民党内では「減税」か「現金給付」かで激しい対立が始まっています。

旧安倍派などの反主流派は消費税減税を求める一方、財務省と近い主流派の森山裕幹事長らは、3〜5万円の現金一律支給でお茶を濁す考えです。

そこに割って入ったのが、公明党。驚くべきことに、「減税も現金給付も両方やるべき」と主張し、その財源には「赤字国債」の発行を容認する構えを見せています。

斉藤鉄夫代表は「すべての税目で減税を検討すべき」とし、「つなぎ策としての現金給付も必要」と強調。従来の“財政規律派”とは思えぬ大胆な変身です。

この豹変は、単なる選挙対策ではありません。背後には、党の深刻な危機感があります。

公明党の得票数は年々減少傾向にあり、昨年の総選挙ではついに600万票を割りました。ピーク時から300万票も減らしたのです。

活動の中核だった創価学会も高齢化が進み、かつての求心力は低下。池田大作名誉会長の死去も影を落としています。昨年は常勝関西といわれた大阪の4選挙区で全敗、石井啓一代表も落選するなど、党勢の衰えは覆い隠せません。

このままでは参院選で改選14議席の維持はおろか、10議席前後まで後退しかねません。自民党と合わせても過半数に届かない恐れさえ出てきます。

だからこそ、公明党はこれまでの財政健全路線を転換し、減税を訴えることで生き残りを図ろうとしているのです。


この新路線を主導するのが、ゴールドマンサックス出身で資産家としても知られる岡本三成政調会長。彼は、斉藤代表とタッグを組み、公明党のブランド刷新を目指しています。

岡本氏はすでに国民民主党の玉木代表とのYouTube共演などを通じて急接近。企業団体献金の改革でも国民民主党と合意しました。一方で、自民党とは明確に距離を取りつつあります。都議選では裏金問題を理由に自民の全候補の推薦を拒否。自民党の緊縮財政路線にも公然と反旗を翻しています。

さらに、公明党は選択的夫婦別姓に賛成を表明。これもまた、自民党の保守層とは一線を画す姿勢です。
このように、公明党は今、「ポスト自公連立」の選択肢を模索しはじめているのです。

思い出されるのは、自公連立の始まりが1999年であるということ。以来、25年にわたって与党にとどまり続けた公明党ですが、その間に「福祉の党」から「公共事業の党」へと変質したとの批判も少なくありません。

国土交通大臣ポストを手放さない背景には、公共事業利権の維持があるとも言われます。与党の一員であることが絶対条件なのです。

しかし、いまや自民党は裏金問題で支持を急落させ、自公だけでは政権を維持できない状態です。そうした中で、公明党が注目しているのが、勢いを増す国民民主党です。

減税を掲げて急伸しつつあるこの党との連携は、公明党にとって新たな政権与党の枠組み入りを保証する「保険」になると映っているのでしょう。

自民党内でも、緊縮財政派と減税派の対立が先鋭化しています。森山幹事長ら緊縮派が勝利して立憲民主党と接近すれば、公明党も旧来の姿勢に戻って「自公立」連立へ。反対に、自民党内の減税派が勝利して国民民主党に歩み寄れば、「自公国」連立政権の誕生もあり得ます。

こうした流動的な政局の中で、公明党はどちらに転んでも対応できるよう、両睨みの態勢をとっているのです。
その本音は「どんな手段を使っても政権の中に残る」こと。
だから、政局を見るには公明党を見よ――この格言が再び現実味を帯びてきたのです。