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迷走する公明党――「減税消滅」の裏に見える政界再編の断層

政局の潮目を見極めたければ、公明党の動きを注視すべきだ。永田町では昔からそう言われてきた。連立与党でありながら、風向きによってスタンスを変えるその身軽さが、政界の力学を映す“風見鶏”のような存在になっているのだ。

そして今、その公明党が大きく迷走している。参院選公約の目玉と目されていた「食料品の消費税ゼロ」が、発表直前にあわただしく削除された。この突然の“手のひら返し”は何を意味しているのか。背景を追うと、政界再編の深層が浮かび上がる。

■減税路線からの撤退――焦りと追従の果てに

6月6日に発表された公明党の参院選公約から、「消費税ゼロ」政策が消えた。大手メディアは、自民党が減税を見送ったため、連立の足並みをそろえたと解説しているが、これは表層的な見方にすぎない。

もともと石破総理や森山自民党幹事長は減税に否定的で、それは以前から明白だった。むしろ注目すべきは、公明党があえて減税路線に踏み込んだ背景だ。

きっかけは、昨年の総選挙で国民民主党が「減税」を旗印に議席を伸ばし、“政界の主役”として注目されたことだった。これに呼応するように、自民党内の反主流派(麻生太郎・茂木敏充ら)を中心に、「玉木雄一郎首相」待望論が浮上。自公に国民民主を加えた“自公国連立”構想が真剣に議論されはじめた。

その流れに乗り遅れまいと、公明党は国民民主に急接近。斉藤鉄夫代表は赤字国債を容認する発言まで踏み込み、玉木代表との距離を詰めた。政治とカネの問題では共同案を提示し、選択的夫婦別姓でも中間派路線を共有。完全に国民民主に軸足を移していた。

しかし、事態は急変する。「山尾ショック」で国民民主は勢いを失い、玉木代表の「備蓄米=動物の餌」発言が批判を浴び、支持率は急落。代わって、立憲民主党がじわじわと支持を回復し、国民民主を逆転した。

こうなると公明党にとって、もはや国民民主に“乗る価値”はない。減税への姿勢も一気に後退し、赤字国債発行にも否定的になった。勝ち馬に乗る――その本性が露わになった瞬間だった。

■立憲との接近と、財務省シナリオ

公明党が次に選んだ“勝ち馬”は、立憲民主党だ。政権交代を直接望むわけではないが、自民党内で立憲との「大連立」構想が動き始めたのだ。

その立役者が、森山幹事長と立憲の野田佳彦代表である。年金改革をめぐり、立憲案を丸呑みする形で野党の協力を取りつけ、3党(自民・公明・立憲)による法案修正で可決に持ち込んだ。

この“自公立3党体制”は、消費税増税による財源確保を旗印とする、大連立への地ならしだ。財務省のシナリオのもと、財政規律派が主導する布陣が水面下で整えられていた。

公明党も、今度はこの流れに乗るべく、立憲との歩調を合わせはじめた。だがここで一つのジレンマが生まれる。国民民主とともに減税を掲げてきた直後に、今度は完全否定では、支持層に説明がつかない。

そんなタイミングで出されたのが、立憲による「食料品の消費税ゼロ(1年限定)」という新公約。これに飛びついた公明党は、自らの減税案として公約の原案に盛り込み、「整合性」を演出しようとしたのだ。

■進次郎ブームがすべてを壊す

しかし、またも想定外の事態が発生する。小泉進次郎農水相が、備蓄米の放出やコメ増産で注目を集め、「小泉劇場」が再来したのだ。

これに石破総理も便乗。農水族ドン・森山幹事長を敵に回すことも辞さず、改革姿勢を前面に打ち出し、内閣支持率は急回復。石破氏は「不信任案が出れば即解散」と強気に出る。

こうなると、立憲に妥協して不信任案提出を回避する必要すらなくなる。進次郎人気での選挙勝利が現実味を帯び、「真夏の衆参ダブル選挙」の可能性が浮上した。

公明党は再び右往左往。ここで立憲にすり寄りすぎては、進次郎ブームに取り残される。支持層に訴求力のある「消費税ゼロ」の文言も、急変する政局のなかで“場違い”なものになりつつあった。

結果、公明党は、土壇場で公約から「食料品の消費税ゼロ」を削除するというドタバタ劇を演じることになる。

■「老舗政党」の生き残り戦略

なぜこれほどまでに公明党は迷走したのか。そこには3つの構造的な問題がある。

第一に、創価学会の高齢化と組織力の低下。池田大作名誉会長の死去も影響し、支持基盤の再編が求められている。

第二に、自公間のパイプの劣化。山口那津男元代表の退任と後継の不在、二階俊博や菅義偉といった“窓口役”の退場・影響力低下で、連立の調整力が低下した。

第三に、自民党そのものの弱体化。選挙では過半数割れのリスクが常態化し、野党との連携も視野に入れた柔軟な対応が求められている。

こうした中、公明党は「勝ち馬に乗る」スタイルをますます強めるだろう。国民民主から立憲民主、そして進次郎ブームへ――。次々と乗り換えながら、組織票という“実弾”を手放さずに政界を泳ぎ切る。

今の政局を読み解くカギは、やはり公明党にある。迷走の裏にこそ、リアルな権力のダイナミズムが見えてくるのだ。