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立憲自滅で早期解散論強まる!高市早苗大臣の追及より維新との共闘を優先して小西洋之参院議員を解任・処分した立憲・泉健太代表

放送法の政治的公平の解釈変更をめぐる総務省の内部文書を入手し、当時総務大臣だった高市早苗氏を国会で追及してきた立憲民主党の小西洋之参院議員が、衆院憲法審査会の毎週開催を「サルのやること」と揶揄したことについて立憲の泉健太代表から厳重注意され、参院憲法審査会の野党筆頭幹事を解任された。

小西氏は3月29日の参院憲法審終了後、記者団の取材に応じ、衆院憲法審を毎週開催することについて「サルのやること」「蛮族の行為」と酷評。この発言がマスコミに報じられると、NHKやフジテレビを名指しして「元放送政策課課長補佐にけんかを売るとはいい度胸だ」とSNSに投稿した(小西氏は元総務官僚)。

一連の言動に対して立憲を含む与野党から「侮辱発言だ」「これこそ報道への圧力」と批判が噴出。小西氏はオフレコ取材への発言であり、その場ですぐに撤回したと釈明しつつ謝罪したが、衆院憲法審の毎週開催を主張してきた日本維新の会は立憲に対して「謝罪が不十分」として処分を迫り、政策協調を凍結すると通告した。

立憲の泉代表はこれを受け入れ、3月31日の記者会見で小西氏の発言を「まかりならん。筆頭幹事の任を降りてもらう」と激しく批判し「党として謝罪したい。党の見解と異なる」と陳謝。小西氏を厳重注意したことを明らかにするとともに、参院憲法審の筆頭幹事解任は「事実上の更迭だ」と明言したのである。

小西氏の高市氏追及は3月の参院予算審議の最大のテーマだった。安倍政権下で進んだテレビ報道への介入を暴くとともに、高市氏が「捏造文書だ」「捏造でなければ議員辞職する」と啖呵を切ったことで、国会審議は高市氏の進退問題一色になった。

小西氏の追及姿勢に対し、リベラル支持層を中心に賞賛の声が高まる一方、高市氏を熱狂的に支持する安倍支持層や右派言論界からは小西氏をバッシングする投稿も広がっていた。

国会が高市氏の独り舞台になった後に岸田内閣の支持率が急上昇し、予算案は淡々と成立。自民党内では「高市氏は支持率回復と予算成立の立役者」と余裕の声が漏れる一方、立憲内部では「高市氏の進退問題を深追いしすぎた」「物価高や少子化対策、防衛増税など他の重要テーマの追及が甘くなり、岸田内閣を救ってしまった」として小西氏に対する冷ややかな視線が広がり始めていた。

小西氏の「サル発言」はこうした経緯のなかで飛び出した。高市氏追及の先頭に立ってきた小西氏を立憲が解任・処分した政治的影響は極めて大きい。

きょうはこの問題について深掘りしてみよう。

【1】立憲内での小西氏の立ち位置

小西氏は東大から総務省(旧郵政省)に入った元キャリア官僚。参院千葉選挙区選出で当選3回、51歳である。

改憲には慎重姿勢で、憲法審査会の毎週開催にも強く反対する立場だった。自民党に加えて維新や国民民主党も改憲論議の加速を強く求め、立憲内部でも同調する動きがみえるなかで、小西氏はそれに反対する立場を鮮明にしていた。

さらにいえば「提案型野党」を掲げる泉代表や岡田克也幹事長、安住淳国会対策委員長ら立憲執行部が維新との共闘を最優先し、自民との連携も視野に入れるなかで、「批判型野党」の立場を重視する代表的な立憲議員の一人が小西氏だった。その意味では、泉ー岡田ー安住の執行部ラインからはそもそも煙たい存在だったといえる。

小西氏の高市氏追及に対しても、立憲内部には最初から突き放すムードがあった(立憲執行部が総務省の内部文書入手を高く評価していたのなら、党を挙げて衆院予算審議で追及を開始することもできたはずだ)。3月の参院予算審議の最中に内閣支持率は下落するどころか上昇したことを受けて、小西氏への冷ややかな視線は強まっていた。

しかし内閣支持率の上昇を招いた責任は小西氏にはない。仮に小西氏が高市氏追及に深入りしすぎたとしても、国会戦略全体を組み立てるのは安住国対委員長ら党執行部の責任だ。現場で追及する小西氏が自らのテーマに必死になるのは当然で、質問時間の割り振りなどで他のテーマとのバランスをとるのは党執行部の務めである。

安倍政権下のテレビ報道への介入を暴いて高市氏に辞任を迫る小西氏を、党執行部も表向き責めるわけにはいかない。そこへ、高市氏追及とは直接関係しない憲法審をめぐる「サル発言」が飛び出した。立憲執行部とすれば渡りに船だった。

【2】「サル発言」の是非

小西氏の「サル発言」は褒められるものではない。人間をサルにたとえて揶揄するのは不快感を与えるし、国会議員として品位を欠くし、失言といえば失言だろう。

だが、役職を解任するほど看過できない失言とは思えない。高市氏の「捏造発言」や国会で繰り返される政治家や官僚の虚偽答弁に比べたら格段にマシだ。立憲執行部が小西氏を口頭注意すれば事足りる話だと私は思う。

小西氏はオフレコ発言だったと釈明しているが、オフレコでも差別発言など看過できないものはオフレコを解禁して報道すべきであるというのが政治報道の慣行である。最近では岸田首相秘書官が記者団のオフレコ取材に対して性的少数者を蔑視する発言を行い、これを毎日新聞が報じたことをきっかけに岸田首相から更迭された。

だが、小西氏の「サル発言」はマイノリティーを差別する内容とはいえないだろう。小西氏が批判を向けた矛先は憲法審の毎週開催を訴えてきた与野党の国会議員であり、政治家同士の政治闘争のなかで飛び出した「口汚い言葉」といえる。首相秘書官の性的少数者に対する差別発言と同一に論じることには違和感がある。

同様なことは、兵庫県明石市で大胆な子ども政策を通じて人口も税収も伸ばしたことで全国に名を馳せた泉房穂市長が、政敵である自民党の市議会議長らに「選挙で落としてやる」と暴言を吐いたとして市議会やマスコミから批判され、政治家引退を表明した問題にもいえる。

私は永田町で20年以上、与野党の政治家を取材してきたが、激しい権力闘争が繰り広げられるなかで政治家が政治家に向かってこの程度の言葉を吐くことは日常茶飯事だった。政治家同士の激しい応酬を「失言」として批判するのは政略的な要素が強い。あくまでも権力闘争の一断面として捉えたほうが実態に即している。

その意味で、小西発言を「失言」として批判した維新をはじめとする与野党も、それを受け入れて小西氏を解任・処分した立憲執行部も、政治倫理問題として対処したというよりも、政治的駆け引きのカードとして使ったとみるべきであろう。

マスコミもその視点で報じるのが実態に即した政治報道であり、「失言」として小西氏を単に責め立てるのはむしろ報道の裏側に潜む政治的思惑への疑念(立憲つぶしや高市氏擁護など)を惹起させることになる。

本来なら小西氏を擁護する立場にある立憲執行部が小西氏を解任・処分したことも、トカゲの尻尾切りで自分たちの立場を守る保身の側面が強い。これではリスク覚悟で疑惑追及を試みる国会議員たちの士気は下がり、野党の政権監視能力が大きく失われる恐れがある。その意味でも立憲執行部の対応は疑問だ。

マスコミでも政権追及型の調査報道に尻込みする傾向が強まっている。その発端は2014年、朝日新聞社が原発報道をめぐる吉田調書報道を安倍政権と右派言論界の圧力に屈して取り消し、取材班を解任・処分したことだった。これを機にマスコミ界では安倍政権追及を恐れる空気が一気に広がったのである。

私はこの報道の担当デスクを務め、会社から解任・処分されている。この経緯は拙著『朝日新聞政治部』で克明に描いた。

今回の小西問題をみると、上層部が自己保身から現場に責任転嫁する立憲民主党と朝日新聞社の体質は瓜二つであり、このあたりにリベラル勢力が政治闘争で負け続ける大きな要因があると思わざるを得ない。

【3】立憲の「小西切り」の政治的意味と影響

①「維新に追従する立憲」が鮮明に

立憲執行部が小西氏を切ったことは「維新との連携」を最優先にする党の方針を明確にしたといえる。

維新は「打倒・立憲」を掲げ、自公政権を倒す前に立憲から野党第一党の座を奪うことを目標に掲げて衆参両院で議席を増やしてきた。自民党は維新を野党分断工作の要と位置付け、側面支援を重ねてきたのである。

立憲は維新を「自公の補完勢力」と揶揄して激しく対立してきたが、昨夏の参院選で敗北した後、共産党やれいわ新選組との野党共闘を見限り、維新との国会共闘に舵を切った。立憲の政党支持率が低迷するなかで、野党第二党の維新との連携を深め、次の衆院選での選挙協力を目指すことで、野党第一党の座を守る戦略に転換したのである。

この結果、立憲は維新の背中を追うように政策転換を進め、自公政権に接近してきた。旧統一教会問題をめぐる被害者救済法案も賛成に転じ、敵基地攻撃能力を持つ巡航ミサイル・トマホークを米国から大量購入することにも理解を示してきた。このため、維新が主張する改憲や原発推進でも立憲は譲歩を重ねていくことへの警戒感が立憲内のリベラル派に広がっていた。

維新が立憲執行部に対し、小西氏を処分するまで政策協調を凍結すると通告したのは、立憲に対する維新の優位を世に示す「踏み絵」を迫ったといっていい。

立憲執行部が維新の求めに応じて小西氏を処分したことは「維新の優位」を受け入れたといえる。維新との選挙協力なしには次の衆院選での惨敗を免れないという危機感を募らせていることの証左であろう。

しかし、維新は立憲との「国会での共闘」には踏み切ったものの「選挙協力」には応じない姿勢をみせる。立憲批判を前面に掲げて「アンチ自民、アンチ立憲」の票を取りこんで議席を伸ばしてきた経緯があるだけに、立憲との選挙協力に転じれば失速する可能性が高いためだ。

今回の小西問題で揺さぶりをかけたのも、「立憲に対する維新の優位」を見せつける狙いに加え、目下の統一地方選で立憲に打撃を与え、各地の維新候補への支持を広げるという選挙戦略の側面も強い。国会での共闘はあくまでも国会戦術の問題で、選挙では絶対に立憲と手を結ばないという維新の政党戦略はそう簡単には崩れず、立憲の片想いに終わる可能性が高い。

立憲が沈めば、維新が浮かび上がる。この構図は4月の統一地方選でも、次の衆院選でも、あてはまるだろう。

立憲は、維新に平伏しなければ衆院選を戦えないという体たらくを露見したうえ、肝心の選挙協力も実現できないことになれば、衆院解散早々に戦線崩壊を招いて大惨敗ーーという悪夢が現実のものとなりそうだ。

②高市氏追及と放送法問題での敗北が決定的に

放送法の解釈変更をめぐる内部文書を入手してテレビ報道への介入を暴く先頭に立ち、高市大臣に辞任も激しく迫ってきた小西氏を立憲民主党が切り捨てたことは、放送法と高市氏追及の二大テーマで「撃ち方やめ」を宣言したに等しい。3月の参院予算審議の大部分を費やしたテーマについて、立憲は敗北を受け入れたのである。

この結果、高市氏は逃げ切り、テレビ報道への介入問題もうやむやに終わるだろう。小西氏処分に対しては立憲を支持するリベラル層からも落胆の声がSNSで広がっており、立憲は自らの支持層を裏切ったという印象は拭えない。政党支持率の下落を招く危険は大いにある。4月の統一地方選に響くのは間違いない。

立憲執行部がそもそも岸田内閣との激突を望んでおらず、むしろ一致点を懸命に探してきたことがある。小西氏の追及姿勢はそれに水を差すもので、立憲執行部は乗り気ではなかった。小西氏の「失言」を機に、岸田内閣との協調路線に体よく立ち返ることができるという目論見もあっただろう。

しかし、岸田内閣が立憲を快く受け入れる可能性は低い。なぜなら、高市劇場のなかで内閣支持率は急回復し、立憲の助けを得なくても、岸田首相は求心力を回復しつつあるからである。

岸田内閣との接点を残すために小西氏を切り、立憲支持層を落胆させ、統一地方選への逆風を招き、さらには岸田内閣からも突き放されるーーここにも立憲の悪夢の構図が浮かび上がる。

③立憲自滅で解散風強まる

岸田首相は立憲自滅でウハウハだ。

野党の追及で国会が高市氏一色になるなか、岸田首相は物価高や防衛増税などへの追及を免れ、予算審議はスムースに進み、予算案はあっけなく成立した。例年は予算審議を経て内閣支持率は下落するのだが、今年は逆に内閣支持率は回復し、マスコミ各社の3月調査では軒並み40%台を回復して7ヶ月ぶりに支持が不支持を上回ったのである。

自民党内では野党の選挙協力が進まずバラバラであることも踏まえ、「今なら勝てる」として早期解散を求める声が広がり、「岸田降ろし」の動きはぴたりと止まった。

立憲の「小西切り」は立憲支持率をさらに押し下げ、自民党内の早期解散論を過熱させるに違いない。

岸田首相は5月19日〜21日の広島サミットまでは解散権を封印するだろうが、サミット終了時点で支持率がさらに上がっていれば、6月の通常国会会期末にむけて解散論はさらに高まるだろう。

立憲の安住国対委員長は「早期解散に大義なし」と牽制するが、首相の解散断行を阻止することはできない。むしろ安住氏の発言は「いま解散を断行されたら立憲は太刀打ちできない」と白旗をあげるようなもので、自民党内の早期解散論をますます高める効果を生むだろう。

立憲は小西氏を切って早期解散論を勢いづかせ、衆院選惨敗の悪夢を自ら引き寄せた格好だ。


以上の考察から見て、立憲の「小西切り」はあらゆる観点からみて愚策としかいいようがない。

二大政党政治は与党第一党に取って代わる健全な野党第一党が存在してはじめて機能する。立憲のひどい体たらくが自民党を甘やかせ、政界全体の緊張感を失わせ、モラル崩壊を生んでいる。

次の総選挙の小選挙区で「自民か、立憲か」という二者択一を迫られる有権者にすれば、たまったものではない。政治へのあきらめムードを広げ、投票率を押し下げている最大の責任は、野党第一党の立憲にある。

このまま解散総選挙に突入したら、日本政界はたいへんなことになるだろう。立憲にはもはや期待できない。統一地方選を機に、兵庫県明石市の泉房穂市長が率いる「明石市民の会」をはじめ、地方から政治改革のうねりが巻き起こることに期待したい。


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