バイデン米大統領がウクライナの首都キーウを電撃訪問してゼレンスキー大統領と会談したことで、G7首脳でウクライナを訪問していないのは岸田文雄首相ただひとりとなった。
岸田首相は今年5月に地元・広島で開催するG7サミットのホスト役を務めることに並々ならぬ意欲を示している。広島サミットの最大の議題がウクライナ戦争になるのは間違いない。岸田首相はゼレンスキー大統領からキーウ訪問を要請されてもいる。それにもかかわらずホスト役だけがウクライナを訪問していないのでは格好がつかないーー岸田首相は焦り、ウクライナ訪問の検討を外務省などに強く指示してきた。
読売新聞などの報道によると、2月24日金曜日の夜から27日月曜日の朝にかけてポーランドから陸路でキーウへ入る行程が検討されたようだ。
ところが①自衛隊の任務に海外での首相警護は想定されていない②首相の安全確保のメドがたたない③国会審議への影響を避けるため日程が週末に限定されるうえ、国会の了承や同行記者募集などで情報が漏れる可能性が高いーーなどの理由からキーウ訪問のハードルは極めて高いとマスコミ各社は伝えている。
そのうえ、岸田首相のキーウ訪問が実現しない場合の代替措置としてゼレンスキー大統領を広島サミットへ招致することも検討しているという。
なんともまあ、開いた口が塞がらない。
キーウ訪問のハードルはもともと予見できたことだ。岸田首相はそれを承知でキーウ訪問を検討していると公言してきた。安全面で難しいと思うのなら、最初から口にしなければよかったのだ。
この首相は一事が万事、このさまである。その時々の体裁を取り繕うため、その場でカッコをつけるため、うかつに言葉にしてしまうのだ。「聞く力」も「丁寧な説明」も「成長より分配」も「新しい資本主義」もどこへ行ったのか。
時代遅れのトマホークの一括大量購入をバイデン大統領にあっさりと約束し、防衛力強化を歴史的役割と豪語して防衛増税をいきなり打ち上げたのも、すべて岸田首相が自分の見栄えを気にしてのこととしか私には思えない。
キーウ訪問もその程度の覚悟で検討してきたに違いない。ところがバイデン大統領の電撃訪問により、「G7首脳でたったひとり置いてけぼり」になったことで、お尻に火がついたといったところだろう。
岸田首相は5月下旬の広島サミットの前、おそらく大型連休中のキーウ訪問を何としても実現するように外務省などに指示するだろう。役人は命じられれば行程をつくる。そして「首相の安全を確保できないリスクはあります。そのリスクを背負って踏み切るかどうかは首相のご判断です」というに決まっている。
最後は首相自身の決断しかない。「安全が確保されるのなら行く」というのならいつまでも決断できない。その覚悟がないのなら、最初から検討を指示しなければよいのだ。
キーウ訪問をめぐる混乱は、岸田首相の言葉の薄っぺらさ、覚悟のなさ、カッコばかりこだわる軽薄さを象徴する事案である。
そんな状況下で強引にキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領にさまざまな口約束をしてきたら、日本は泥沼化するウクライナ戦争への関与をさらに深め、さらなる防衛費増大を招き、日本の安全保障環境を危うくするだけではないか。
一週間の政治をランキング形式で振り返る『ダメダメTOP10』の格好の題材である。
今週は岸田首相のほか、森喜朗元首相や小池百合子東京都知事ら大物が登場しているのでぜひご覧ください。