自民党最大派閥の安倍派の国会議員らが政治資金パーティーの売り上げノルマ超過分を裏金としてキックバックされていたとして東京地検特捜部から事情聴取されている事件で、裏金を受け取った議員側は「派閥から『このお金は収支報告書に記載する必要のない政策活動費だ』と説明されていた」と供述している、とマスコミ各社が報じている。
この「政策活動費」は、いわば「政治家だけに例外的に認められた領収書不要の裏金」で、パーティー券よりドス黒いといえる。
ここにメスを入れなければ、政治家は「政策活動費」を口実に裏金を正当化して立件を回避することになり、政治とカネの問題は根本的に解決しない。
新たな焦点に浮上してきた「政策活動費」について解説しよう。
🔸政治家個人への献金は禁止されているのに…
政治資金規正法は、政治家個人への寄付を禁じている。
このため、企業や団体は、政治家が設立した資金管理団体や政党支部を通して寄付をしている。資金管理団体や政党支部の会計責任者は通常、政治家の秘書や党職員が務め、政治資金収支報告書にお金の出入りを記載して提出し、それが一般に公開されている。
政治資金をめぐる捜査で真っ先に秘書が逮捕され、政治家個人が逃げ切るのは、このためだ。
政治家個人を立件するには、秘書や党職員に不記載や虚偽記載を指示したか、詳細な報告を受け承認していたことを立証することが不可欠だ。さもなくば、政治家は「秘書が、秘書が」と言って逃げ続けることになる。
今回の裏金事件も、所属議員にノルマ超過分をキックバックしていた安倍派の会計責任者を務めた派閥職員が真っ先に逮捕される可能性が高い。
派閥職員の上司にあたる事務総長を務めた松野博一前官房長官、西村康稔前経産相、高木毅前国対委員長が不記載や虚偽記載をどこまで把握していたかが捜査の大きな焦点となる。3氏はここをあいまいにし、派閥職員に全責任をなすりつけて逮捕を免れるつもりだろう。
しかし、裏金を受け取った多くの安倍派議員たちにはそれ以上に抜け道が用意されている。そのカラクリが「政策活動費」だ。
政治家個人が寄付を受けることは法律で禁じられているが、政党から寄付を受けることは例外的に認められている。ここが政治資金規正法がザル法と呼ばれる大きな理由である。
政党が政治家個人に寄付する政治資金が「政策活動費」や「組織活動費」と呼ばれるものだ。
政党はどの政治家にいくら寄付したかを収支報告書に記載する必要があるが、その政治家は受け取った政治資金をどのように使ったかを報告する義務はない。いったん政治家個人に渡った「政策活動費」はその後、完全にブラックボックスとなる。領収書不要で自由に使える「合法的な裏金」に化けるのだ。
🔸幹事長に5年で50億円
この「合法的な裏金づくりシステム」を、与野党ともフルに活用してきた。
2021年の各党の収支報告書によると、自民党は17億2800万、国民民主党は8200万円、立憲民主党は5000万円、維新は5900万円を計上している。受け取り手は幹事長ら党幹部がほとんどだ。
自民党で幹事長を5年務めた二階俊博氏は幹事長時代に計50億円近くの政策活動費を受け取っていた。その使途はまったく不明だ。
政界関係者によると、この政策活動費は「落選中の候補予定者の生活資金」をはじめ、表に出しにくい選挙対策費などに使っているという。だが、実態は確かめようにない。党幹部は自らの勢力拡大を狙って仲間に資金をばら撒き、受け取った議員が遊興費に充てていても、調べようがないシステムになっている。
安倍派議員たちはこの「合法的な裏金づくりシステム」を逆手に取って、東京地検特捜部の調べに対し、「派閥から『このお金は、政党から政治家個人に支給された政策活動費なので、収支報告書に記載しなくていい』と説明された」と言い訳している。
要するに「安倍派幹部が政党から受け取った政策活動費を派閥所属議員に配ったものであり、収支報告書に記載しなくてもいい」という説明を受けていたというのである。そのため、収支報告書に記載しなかったことについて違法性の認識はなかった、という主張だ。
もちろんこれはウソだ。実態はパーティー券のノルマ超過分をキックバックされ、それを収支報告書に記載せずに裏金化し、領収書なしに自由に使っていたのである。
「政策活動費」という裏金づくりシステムを法律上認めていることが、彼らに「言い逃れ」の口実を与えているのだ。
🔸政治資金の抜け道を塞ぐ法改正を!
政策活動費の使途を報告しなくていいのは、政治資金規正法の抜け道だ。
裏金を受け取った政治家個人は「政策活動費と認識していた」として逃げ切れてしまう。裏金を受け取った側の政治家を逮捕するハードルが極めて高くなっている。
政策活動費の使途に報告義務がないこと、政党から政治家個人への寄付が認められていること、この二つの抜け道は塞がなければならない。
今回の裏金事件を受けて、与野党は早急に「政策活動費」にメスを入れる政治資金規正法の改正論議に着手すべきだ。
もちろん自民党は後ろ向きだろう。まずは野党が率先して政策活動費の使途を全面公開し、自民党に改革を迫るのがいちばんいい。
野党も政策活動費を裏金として使ってきた以上、返り血を浴びる恐れはある。しかしそれを恐れていては政治資金の改革は進まない。
自民党だけではなく野党も問われている。この追い風をいかして政治資金の改革に踏み出せば、次の衆院選で道は開ける。尻込みすれば野党も自民党と同様、既存勢力として有権者から見捨てられ、新興勢力の台頭を許すことになるのではないか。