総選挙で自公与党が過半数を割り、減税を掲げた国民民主党が躍進して自公与党に所得税の非課税枠103万円の引き上げを迫ったことで、政界の対立構図に変化が生まれている。
日本政界は自社体制以降、外交防衛や人権問題をめぐる左右のイデオロギー対立が基軸だった。自民党は右、社会党は左とされ、その他の野党も右が左かで政治的立ち位置を認定されることが多かった。
自民党と民主党の二大政党時代に突入しても、民主党は左右にまたがる寄り合い所帯とされ、外交防衛や憲法問題の党内結束のアキレス腱となってきた。
永田町では「日本社会は右が3、左が2、無関心が5」といわれ、選挙で左右対決が強調されると、投票率は5割にとどまり、右(自民党)が左(野党)に3対2で競り勝つという構造が長年続いてきた。
その対決構図に変化が生まれている。増税か減税か、緊縮財政か積極財政かという対立軸が注目されるようになってきたのだ。
所得税の非課税枠(103万円の壁)の引き上げ問題で、減税を迫る国民民主党と、税収減を穴埋めする財源確保策を求める自公与党が対立し、その流れは加速してきた。
財政収支の均衡を重視する緊縮財政は、大企業や富裕層ら「上級国民」に有利だ。大衆から幅広く徴収する消費税の増税で社会保障費を捻出し、バラマキ政策を抑制することで「デフレ」が続けば、経済力の格差が固定し、下剋上を防ぐことができる。上級国民がいまの地位を守るには、緊縮財政によるデフレ社会のほうが望ましい。
一方、一般大衆は所得税や消費税の減税や国民への現金の直接給付を期待している。緊縮財政・増税は上級国民、積極財政・減税は一般大衆に味方する経済財政政策といっていいだろう。財政や税制をめぐる対立は「上下対決」といってよい。
左右と上下の対決構図を一枚の紙に落とすと以下のようになる。
国民民主党や日本保守党は明確な「右下」だ。国民民主党は減税を重視し、外交安保政策や憲法問題では右に陣取っている。日本保守党はそもそも右派政党として旗揚げしたが、名古屋市長として減税政策を前面に掲げてきた河村たかし氏が総選挙で当選したことで減税色が強まってきた。
れいわ新選組は明確な「左下」だ。政党結成以来、消費税廃止が党是である。ロシアのウクライナ侵攻では、米国に追従してウクライナを全面支援・ロシアを敵視する国会決議に唯一反対した。重度障害者を国会議員に当選させるなど人権問題でもリベラル色が強い。
自公与党は明確な「右上」だ。これまで消費税増税を重ね、今回の所得税減税問題でも税収減を強調して代替の財源が必要との主張を展開した。財政収支の均衡を求める財務省の緊縮財政論に歩調をあわせている。外交安保では日米協調が基軸で改憲も進める立場だ。
立憲民主党は外交安保政策では左右にまたがる寄り合い所帯である。一方、野田佳彦代表が民主党政権で首相を務めた時に自公民3党で消費税増税に合意したことに象徴されるように、財政収支の均衡を重視する緊縮財政の立場は非常に強い。
日本維新の会は外交安保では自民党よりも右だ。財政政策ははっきりせず、上下に分散しているようにみえる。
要注意は、共産党だ。外交安保では明確な左だが、経済政策では減税を訴えつつも、財政収支の均衡は重視している。共産党の指導層は高学歴のエリート層が多く、財政論では緊縮の色合いが極めて強い。同じ左派でもれいわとの大きな違いになっている。
これまでの左右イデオロギー対決では「自公vs立共」の構図だった。この場合、自公与党の対抗するための野党共闘が常に課題となってきたが、維新も国民も右のため、足並みが乱れてきた。
上下対決となると、様相が違ってくる。むしろ自公与党と立憲民主党が接近し、国民民主党やれいわ新選組、日本保守党と対峙するという新しい対立構図が見えてくるのだ。
左右より上下の対決が主戦場になれば、自公与党と立憲による大連立という選択肢が浮かんでくる。これに対抗し、減税を訴える勢力が左右イデオロギーの違いを超えて選挙や国会で連携できるかどうかが上下対決の行方を決する。
今夏の参院選が従来型の左右対決となるのか、上下の新たな対立軸となるのか。選挙の構図が今後の日本政界の動向を大きく左右するだろう。