いま、日本の政治は大きな分岐点に差しかかっている。もはや単純な「与党 vs 野党」では語れない、複雑でねじれた勢力図が形成されつつある。
現在の政界は「右上:自民」「左上:立憲」「右下:国民」「左下:れいわ」という四象限に分けて語ると、その動きが驚くほど鮮明になる。
この「政界マトリクス」は、横軸に保守(右)・リベラル(左)、縦軸に財政規律派(上)・積極財政派(下)をとる。右に行くほど改憲・防衛強化・原発再稼働に積極的で、左に行くほど人権・多様性に重きを置く。縦軸の「上」は財務省寄りの増税・緊縮志向、「下」は庶民生活を重視する減税・積極財政派だ。
この軸に政党を配置すると、自民党は「右上」に位置し、大企業・富裕層・高齢世代の利益を代表する政党となる。立憲民主党は「左上」で、リベラル色が強い一方で財政政策では財務省寄りの姿勢を崩さない。国民民主党は「右下」、保守志向ながら現役世代への減税を前面に押し出す。れいわ新選組は「左下」、リベラルでかつ庶民目線の積極財政を掲げる独自路線だ。

この構図で注目すべきは、対角線上に位置する政党が最も相容れないという点だ。つまり、自民党とれいわ、立憲と国民は、政策的にも支持基盤的にも交わる余地がほとんどない。
ここで注目すべきは、立憲と国民の断絶の深さだ。両党とも連合の支援を受け、かつては民主党として同じ船に乗っていたにもかかわらず、現在では「水と油」と化している。
なぜか? それは、「左」と「右」の違いだけでなく、「上」と「下」の違いも根本的に存在するからだ。
立憲はリベラルだが財政規律派。国民は保守だが積極財政派。この二党の支持層は真逆であり、いまや国民の玉木代表は「立憲と組むくらいなら自民と組む」と考えている。一方、立憲の野田佳彦代表も「減税派の国民と組むくらいなら自民の増税派と組んだ方がマシ」と考えているに違いない。
こうした状況は、実は自民党にとって非常に有利に働く。自民党が立憲と手を組めば「上の連立」、国民と組めば「右の連立」となり、どちらの組み合わせでも自民は中心に居座ることができる。
つまり、自民党はその都度、情勢に応じて「使えるパートナー」を選ぶだけで政権を維持できる。これは野党側がバラバラであることの帰結である。
では、立憲や国民がこの構造に対抗するにはどうすればよいのか。
鍵を握るのが「左下」に位置するれいわ新選組の存在だ。れいわは、立憲と「左」で交わり、国民と「下」で交わるという、ユニークなポジションにある。いまのところどの党とも距離を置いているが、この党の存在感は今後確実に増していく。
立憲が政権を目指すのであれば、もはや「左右対決」では勝てないことは過去の選挙結果が示している。日本社会は右傾化が強く、保守の自民が常に有利な「左右」構造では勝ち目が薄い。
であるならば、必要なのは「上下対決」、すなわち庶民の生活を守る積極財政路線で結束することだ。
だが立憲は、自らを「下」と偽装しながら、実は「上」の財務省にべったりなスタンスを取っている。とくに野田元首相のような財政タカ派が党の顔となっている限り、れいわとの接近は現実的ではない。逆に言えば、れいわのような「左下」の勢力が拡大し、国民と一定の連携を深めれば、現状の「自民+どちらか」の構図に風穴を開ける可能性がある。
自民党は、自らを「右上」に固定しながら、都合に応じて「左上」や「右下」と連携を組み替え、支配を維持してきた。だが、「左下」が力を持ち、「上下対決」が本格化すれば、その構図にも終止符が打たれるかもしれない。
政治が混迷を極めるいま、私たち有権者が問うべきは、「右か左か」ではなく、「上か下か」だ。果たして、誰が本当に庶民の生活を考えているのか。その問いの先に、次の政権の可能性が見えてくるはずだ。