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「影の総理」森山幹事長、次の一手──進次郎対策と大連立の深謀遠慮

自民党の森山裕幹事長が、今、政界の主役に躍り出ている。

表舞台に立つのは小泉進次郎農水大臣。彼が農協改革とコメ増産に乗り出したことで、農水族は激しく反発している。

だが、森山氏が恐れているのは単なる政策対立ではない。その背景にある「小泉劇場」の再来――つまり、「進次郎vs既得権益」の構図によって、自らが「抵抗勢力のドン」に仕立て上げられることだ。

進次郎の父・純一郎元首相は、郵政改革の際に野中広務幹事長を“抵抗勢力の象徴”とし、世論の支持を集めて政界再編を成し遂げた。森山氏にとって、あの悪夢の再来は避けたいところだろう。

5月末の週末、鹿児島で行われた森山氏の国政報告会で、農水族の野村元農水相が進次郎批判を展開し、ネットで大炎上。「ルールを覚えてもらわないといけない」などと語った発言は、国民の逆鱗に触れた。農水族への不信は一気に高まり、進次郎への支持が逆に高まる結果となった。

これに危機感を抱いた森山氏は即座に動く。

週明け、農水省を訪問し、進次郎と面会。「備蓄米の放出は緊急対応として当然」と語り、進次郎を全面擁護。記者団の前で「農林部会との連携に問題はない」と強調しつつ、牽制の言葉も織り交ぜた。まさに“緩急自在”の政治術である。

進次郎もまた、ネット番組で森山氏との密な連携をアピール。「毎日、最新情報を報告している」と語り、対立の炎を一時的に鎮めた。

表向きは「和解演出」だが、裏では何が動いているのか。そのカギを握るのが、森山氏が進次郎に手渡した、2兆5000億円の新農業予算を求める提言書だ。

この予算の多くは、山間部などの農地整備=農業土木に充てられる予定で、名目は「生産性の向上」だが、実態は利権構造の維持だ。農業土木に投じれば、業界団体や農協を通じて政治献金や天下り先の確保につながる。一方で、農家への直接支援や戸別所得補償にはつながらない。

この2兆5000億円を巡る攻防こそ、進次郎が「本気で農政を変えるのか」を見極める試金石だ。もし彼がこの利権予算を呑むなら、改革の志は看板倒れになる。

一方、森山氏の動きは農水族にとどまらない。

今週、国会内で講演し、政局運営の方向性について踏み込んだ発言をした。少数与党による綱渡りの国会運営を念頭に、「何回もできる話ではない。いろんなことを考えていかなければならない」と語り、事実上の「連立拡大」に言及したのだ。

これは、単なる偶発的な発言ではない。立憲民主党との「大連立構想」を下支えする布石である。

すでに年金改革法案をめぐっては、自公と立憲が合意。立憲の野田佳彦代表は、その見返りに内閣不信任案の提出を見送る意向を示している。これによって、参院選後の「自公立」大連立の地ならしが完了したと言ってよい。

今国会の会期末は6月22日。13日には参院で年金法案が可決され、15日からはG7サミットで国会は実質休止となる。立憲が不信任案を出せるのは、18日〜20日のわずか3日間だけ。

その提出を見送れば、与野党の「密約」が現実となり、参院選後の連立協議へと進むことになる。

問題は、立憲がこの大連立を国民に明示するのか、あるいは選挙後に「既成事実」として突きつけるのか、である。

減税を掲げた国民民主党が失速する中で、改革派の進次郎も抑え込まれれば、残るは“森山主導”の自公立大連立だけになる。すべてを取り込む老獪な戦略で、森山幹事長はまさに「影の総理」として、日本政治を掌握しようとしている。

その行方を、私たちは冷静に見届けなければならない。