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石破政権、高額療養費制度の負担増の一部凍結を決定〜立憲民主党との歩み寄りの裏に何が?自民・森山幹事長と立憲・安住予算委員長が画策する「参院選後の大連立」への布石

石破茂首相が高額療養費制度の自己負担上限額の引き上げの一部凍結を表明した。

政府が提出した当初予算案では、年収300万円の人で月額8万円、600万円で11万円、1000万円で22万円程度を負担しなければならず、難病患者やがん患者からは「治療継続が困難になる」との反発が相次ぎ、立憲民主党も全面凍結を訴えて予算審議で追及していた。

これを受けて、石破首相は「最も苦しんでいる方々の声を無視して制度を決定することはできない」と一変し、年4回以上の高額治療を受ける人については自己負担の上限額引き上げを凍結する方針を表明。立憲は大きな成果を得た形となり、党内では予算案への賛成論さえ上がり始めている。

しかし、石破政権と立憲の歩み寄りが、本当に純粋な政策判断によるものなのかは疑問だ。私はあらかじめ仕組まれた「出来レース」ではないかとみている。

出来レースだったのか?

政府案通りなら、難病やがんの患者の負担増は避けられず、治療継続が困難になるケースも予想されていた。米国よりも厳しい負担増との指摘もあり、政府がこの内容を強行することはそもそも現実的ではなかった。

そのような無理筋の予算案は、少数与党の国会にあえて提出するだろうか。

政府はあえて厳しい案を提示し、立憲に追及させた上で、最後に譲歩することで同党に花を持たせたのではないかというのが、私の見立てだ。老獪な国対政治とは、そのようなものである。

背景には、自民党の森山裕幹事長と立憲民主党の安住淳衆院予算委員長の親密な関係がある。両者は国会対策委員長時代からがっちり連携しており、今国会では予算案の年度内成立を確保するため、立憲側に一定の「見せ場」を提供するという裏取引があった可能性がある。

また、これと引き換えに、自民党安倍派の元会計責任者の証人喚問を見送り、非公開での聴取にとどめるという取引が成立した可能性もある。

参院選後の「増税大連立」シナリオ

こうした一連の動きの先にあるのは、参院選後の「増税大連立」であろう。その流れをつくるのが森山氏と安住氏だ。

今の自民党には、①国民民主党の玉木雄一郎代表や榛葉賀津也幹事長と気脈を通じる麻生太郎元首相②維新の前原誠司共同代表と盟友関係にある石破首相③立憲民主党の安住淳衆院予算委員長と濃密な関係を築いている森山裕幹事長ーーという3勢力が混在している。

国民民主党の所得減税案が軽視されているのは、麻生氏が非主流派に転落しているからだ。

維新の高校無償化が実現の方向に向かっているのは、カウンターパートが石破首相だからである。ただし、石破首相では7月の参院選は戦えないとの声は自民党内に広がっており、石破おろしが成就すれば維新の影響力も急速に落ちるだろう。

森山幹事長は石破首相と心中するつもりはない。ポスト石破に林芳正官房長官らを担いで現主流派体制を維持すれば、参院選後に立憲の安住氏と連携して増税大連立へ動き出すーーこれが森山シナリオである。

自民党内の3勢力の駆け引きが、野党3党の主導権争いに投影されているのだ。いまのところ森山ー安住ラインのペースで政局は動いているように見える。

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