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茂木敏充「頭脳戦」――総裁選に挑む“スーパー能吏”の現実路線

自民党総裁選に真っ先に名乗りを上げたのは、前幹事長の茂木敏充氏だった。永田町では「党内一の頭脳」と評される人物だが、頭が良ければ首相になれるわけではない。昨年の総裁選では9人が乱立するなかで6位に沈み、党員票では7位という屈辱を味わった。その後は石破政権下で無役に追いやられ、まさに奈落の底に転落した格好だ。
では、茂木氏は今回、どんな巻き返し戦略を描いているのか。出馬会見の発言やこれまでの動きを丹念に読み解くと、浮かび上がってくるのは「精密な頭脳戦」とも言える現実路線である。

経歴と強み――“スーパー能吏”の矜持

茂木氏は、自民党四役のうち幹事長・政調会長・選対委員長を歴任し、閣僚としても外務、経産両大臣など要職を歴任してきた。与えられた仕事を着実にこなす姿から「能吏」と呼ばれるが、彼の場合は一段上の「スーパー能吏」だ。安倍政権下ではトランプ米政権との通商交渉を担当し、与野党から「タフ・ネゴシエーター」と評価された。

東大からハーバード大へと進んだ経歴、初当選同期には安倍晋三氏や岸田文雄氏もいる。安倍氏がかつて「一番頭が良いのは茂木、一番性格が良いのは安倍、一番男前は岸田」と語った逸話は有名だ。もっとも、麻生太郎氏から「頭はいいんだけど、性格がなあ」と揶揄されたように、人望の薄さやパワハラ気質が弱点ともされる。

出遅れ克服へ――ユーチューブ戦略

昨年の総裁選で茂木氏は「現職幹事長」の立場ゆえに出馬表明が遅れ、埋没した。今回はその反省から、誰よりも早く立候補を表明。「結党以来の最大の危機。会社でいえば倒産寸前」「私のすべてをこの国に捧げる」とキャッチーな言葉を連発し、存在感を示そうとした。

さらに、この一年で力を注いできたのがユーチューブである。「茂木敏充改革チャンネル」を立ち上げ、国民民主党の玉木雄一郎代表との対談から、クイズ企画、さらには好物のシュウマイを目隠しで食べ当てるショート動画まで披露する。政治家としての堅いイメージを崩し、親しみやすさを前面に出す試みだ。仕掛け人は最側近の鈴木貴子衆院議員。父・鈴木宗男譲りの強気な姿勢でネット戦略を主導している。

ただし、成果はまだ限定的だ。岸田前首相がショート動画「今日のふみお」で19万人の登録者を集めるのに対し、茂木氏は2万人程度。世論調査の支持率でも上位候補に大きく後れを取っている。

若手との連携――進次郎とコバホークに接近

出馬会見で注目を集めたのは、茂木氏が「小泉進次郎」と「小林鷹之」の名前をわざわざ挙げ、若手登用を強調した点だ。裏を返せば、ライバル視するのは高市早苗氏と林芳正氏であり、若手二人とは手を組みたいというメッセージである。

背景には、後ろ盾の麻生氏の動きがある。麻生氏は前回の総裁選では高市氏を支持したが、今回は「進次郎支持」に傾きつつある。石破政権を阻止するための戦略的選択だ。茂木氏も麻生氏と対立は避け、むしろ進次郎との協調姿勢を打ち出すことで、自身が第一回投票で敗れても決選投票では進次郎支持に回り、政権中枢に返り咲くシナリオを描いている。

「経験不足の進次郎や小林を支えられるのは自分だ」という自負も透けて見える。若手を前に立て、自らは参謀役に回る――茂木氏らしい計算高さだ。

連立戦略――維新と国民民主をどう使うか

総裁選の争点は党内だけにとどまらない。石破政権下で失った過半数をどう回復するか、新たな連立パートナー探しが重要となる。

茂木氏は幹事長時代、麻生氏とともに国民民主党との接近を試みた過去がある。一方で、進次郎や菅義偉氏は維新との関係を深めており、維新との連立が有力視されている。

今回の会見で茂木氏は「維新と国民民主の両方と話したい」と述べ、しかも維新を先に挙げた。これは麻生氏が示した「国民民主切り、維新優先」の路線に歩調を合わせたと受け止められる。公約としては「数兆円規模の特別地方交付金の創設」を掲げ、大阪副首都構想を後押しする維新への配慮がにじむ。

つまり、茂木氏は「勝者総取り」を狙うのではなく、次期政権に食い込み、要職を得ることで再起を図る現実路線を選択しているのだ。

精密な頭脳戦の行方

茂木氏の戦略をまとめれば、①早期出馬で存在感を確保、②ユーチューブで知名度アップ、③進次郎・小林との連携で若手側に立ち、④維新を含む連立戦略で政権入りを模索――という四段構えである。

ただし、政局は生き物だ。いかに精緻なシナリオを描いても、世論の風向きや党内力学の変化で崩れることは珍しくない。

天才的頭脳で知られる茂木氏が、果たして再び脚光を浴びるのか、それとも「能吏」のまま終わるのか。総裁選の行方を占ううえで、彼の動きから目が離せない。