岸田政権をマイナンバーカードをめぐるトラブル続出が直撃し、内閣支持率が続落している。読売新聞の6月世論調査では前月から15ポイント減の41%だった。不支持率は11ポイント上がって44%となり、支持率を追い抜いた。毎日新聞の支持率33%(前月から12ポイント減)に続いて衝撃的な急落ぶりである。
首相の長男翔太郎氏を首相公邸での忘年会で更迭したことや首相が自ら煽った6月解散を見送ったことに、保険証を廃止してマイナカードに一本化する方針が追い討ちをかけ、内閣支持率の下落に歯止めがかからないというのが政界やマスコミ界の一致した見方だ。
岸田首相は7月に岸田外交で反転攻勢を仕掛け、今夏の内閣改造・自民党役員人事で体制を立て直したい考えだが、そもそもの中高齢層を中心に反発や不安の根強い「保険証廃止」を強行するのか、それとも「延期」など軌道修正を図るのか。この選択は、岸田首相が「来年秋の自民党総裁選で再選を果たすため、その前に解散総選挙を断行して勝利し、事実上の無投票再選を狙う」戦略を採用するのか否かを大きく左右する。
というのは、マイナンバーカードと保険証の一本化のスケジュールと、総裁選や解散の時期が密接に絡んでいるからだ。
2024年秋 保険証をマイナカードに一本化して原則廃止 → 24年秋に自民党総裁選
2025年秋 保険証の完全廃止(1年間は猶予期間) → 25年夏に参院選、25年秋は衆院任期満了
たとえ岸田外交や内閣改造人事で一時的に内閣支持率が回復したとしても、支持率下落の根本原因である「保険証廃止」を維持している限り、いつ蒸し返されるかわからない。「原則廃止」の予定時期が自民党総裁選と重なるのは、岸田首相にとっては不運としかいいようがない(したたかな官僚たちは、政局の山場を見据えながら政権を揺るがす時限爆弾を仕掛けて政権運営を時間軸でコントロールしようとするものである)。
解散総選挙に打って出るのなら、その前にマイナンバーや保険証廃止に向けられた世論の反発や不安を取り除いておく必要がある。この問題を抱えたまま解散を断行するのはリスクが高すぎるであろう。マイナカード返納運動が広がりつつあることも、岸田首相にとっては懸念材料だ。
岸田首相が省庁横断の「マイナンバー情報総点検本部」を立ち上げ、秋までをめどに総点検するよう関係閣僚に指示し、「保険証の全面廃止は国民の不安払拭のための措置が完了することが大前提だ。最大2025年までの猶予期間を活用し、不安を払拭していく」と述べ、廃止時期の延期に含みをみせたのは、解散戦略との関連でこの問題を重視していることのあらわれだ。
私がとくに注目しているのは、立憲民主党が「マイナンバー」「保険証廃止」を標的にして総選挙の争点に掲げようとしていることだ。中高齢層の支持獲得を狙った選挙戦略といっていい。
6月解散風が吹き荒れるなか、枝野幸男前代表はマイナンバー問題で「河野太郎デジタル担当相を更迭するとなれば、早期解散だ」と警戒感を示したうえで、「マイナ保険証」をはじめとするデジタル戦略が争点になるとの見方を示した。
河野大臣の更迭→「保険証廃止」を延期など大幅見直し→内閣支持率の回復→早期解散というシナリオを警戒し、立憲民主党としてあらかじめ「保険証廃止」を強く批判する立場を鮮明にしておく狙いがあったといえる。
岸田首相が早期解散を狙うならば、保険証廃止を主導してきた河野大臣を夏の人事で更迭し、保険証廃止のスケジュールを大胆に修正して世論の反発や不安を沈静化する必要があるのではないか。裏を返せば、河野大臣を留任させて予定通りのスケジュールで保健所廃止を推し進めるのなら、早期解散を見送る方向に傾いているとみていいだろう。
保険証廃止を延期して早期解散に踏み切る場合、マイナカードの問題は最大の争点から後退し、代わって防衛増税や異次元の少子化対策の財源確保など「国民の負担増」の問題が浮上してくる。これも岸田首相にとっては避けたい争点なのだが、立憲民主党も日本維新の会も基本的に緊縮財政派(財政収支均衡を重視)であり、「財源論」に持ち込めば決定的な対立軸にはならないとの読みもある。少なくとも一方的に攻め立てられるマイナンバーカードとトラブルや保険証廃止が一大争点になるよりはマシだ。
解散総選挙さえ乗り切れば、立憲は泉健太代表が150議席の目標にとどかずに辞任することが確実視されており、後任代表の有力候補である野田佳彦元首相が筋金入りの緊縮財政派であることを考慮すれば、立憲との間で防衛増税や異次元の少子化対策の財源確保策で折り合える可能性が出てくる。その場合、財政健全化を旗印とした自民・公明・立憲の連立政権も視野に入り、岸田政権は現状とはまったく違った権力基盤を確保し、安定化する可能性も出てくる。
一方、河野大臣を留任させ、保険証廃止も予定通り強行する場合は、解散断行は困難になってくる。この場合は岸田首相は解散総選挙に踏み切れないまま来年9月の総裁選で不出馬・勇退に追い込まれる展開も現実味を帯びてくる。岸田首相が「来年9月まで任期3年、大好きな外交を思う存分にやり遂げれば思い残すことはない」と開き直って解散権を封印することも十分にありうる。
当面は解散がないという空気が広がれば、立憲内の「泉おろし」の動きが沈静化して泉体制が続くのか、それとも党内抗争が激化して総選挙前の分裂含みになるのか。いずれにしても、岸田首相は野田元首相ら立憲の緊縮財政派との連携を水面化で進め、防衛増税や少子化対策の財源確保への環境を整えることになる。
サメタイYouTube【5分解説】でもマイナンバー政局を解説しました。ぜひご覧ください。