岸田文雄首相はマイナンバーカードをめぐるトラブル続出を受けて関係閣僚に総点検を指示し、8月上旬までに中間報告を出す方針を示している。だが、「関係閣僚」たちの振る舞いをみていると、総点検の中身はとても期待できそうにない。
まずは河野太郎デジタル相。マイナカードを利便性ばかりを強調して取得キャンペーンを主導してきた「主犯」である。ここにきてマイナカードの評判が落ちると名称変更の検討を打ち上げたのには唖然とした。名前を変えて信頼回復ーーというのは、いかにも河野氏らしい浅はかさだ。
コロナワクチンにしろ、マイナカードにしろ、世論調査で人気トップの河野氏が担当大臣として旗を振った政策は、いずれも大きな禍根を日本社会に残している。口先ばかりで国民を誘導した挙句、あとからボロボロと問題が噴出するという、同じパターンの繰り返しだ。政治家として最も大切な「言葉への信頼」をこれほど急速に失ったのは、ポスト岸田を狙う河野氏にとって致命傷となるのではないか。
続いて加藤勝信厚労相。来年秋の保険証廃止について、国民生活の混乱や不安解消からもっとも慎重な態度を示すべき厚労相という立場にありながら、7月5日の衆院の閉会中審査では廃止延期を全面否定した。
警察庁は運転免許証とマイナカードの一本化に強く抵抗し、この案は消滅しつつある。警察庁の狙いは運転免許証に関する利権を維持することにあるのだが、保険証廃止をいとも簡単に受け入れた厚労省が警察庁に比べ、いかに弱小官庁であるかを浮き彫にする出来事だった。
加藤厚労相の属人的な思惑もある。
加藤氏は茂木敏充幹事長との派閥会長争いに敗れ、茂木派のナンバー2に甘んじている。先代から家族ぐるみの付き合いである安倍晋三元首相の急逝も痛手だった。ポスト岸田をうかがう茂木氏が岸田首相との溝を深め、8月〜9月に予定される内閣改造・党役員人事で更迭されるとの見方が囁かれる中、茂木氏から派内の主導権を取り戻すためにも、今回の人事で更迭されるわけにはいかない。とにかく岸田官邸の意向に反しないことを優先しているのだろう。国民生活よりも自己保身なのだ。
さいごに松本剛明総務相。暗証番号の必要のないマイナカード発行を表明した。老人ホームなどがたくさんのマイナカードを預かる場合、暗証番号を代わって入力することが困難だという現場の悲鳴を受けた対応なのだろう。
しかし、暗証番号がないと、マイナカードの売りである「コンビニ交付」や「マイナポータルの活用」はできない。ただ単に「顔写真つき保険証」として利用するということになる。
それならば、保険証を廃止せずに、マイナカードを取得しない人は、現在の保険証を利用し続けることができるようにすればよいだけの話だ。なぜ来年秋の保険証廃止にこだわるのか。納得のいく説明はまったく聞こえてこない。
松本氏は民主党から自民党へ移籍し、麻生太郎氏に拾われた。伊藤博文を先祖に持つサラブレッドで、民主党政権で外相も務めたが、自民党に移って最初の表舞台である今回の総務相ポスト(岸田側近の寺田稔総務相が政治資金をめぐる問題で更迭された後に緊急登板)で落第点をつけられたくない。岸田官邸の顔色をみながらそつなくこなそうとするほど、国民生活と乖離していくようにみえる。
マイナンバー3閣僚とも目前に迫る内閣改造人事で踏みとどまることしか考えていない。はたして岸田首相が来秋の保険証廃止を推し進めるのか、大胆な方針転換で支持率回復を狙うのか。加藤厚労相と松本総務相はその感触をつかんでいないため、自信なさそうな対応を重ねている。
ある意味で退路を断ってマイナカードと一蓮托生の道を進んでいるのは、本人にどれほど自覚があるかはさておき、河野氏だけだろう。
岸田首相は3閣僚を留任させ、いまのマイナンバー政策をごまかしながら進めていくのか。3閣僚とも更迭して仕切り直しするのか。それとも河野氏だけ更迭してマイナンバー政策を軌道修正し、加藤氏と松本氏は政局的判断から留任させ、能吏として使い続けるのか。
内閣改造人事は「マイナンバー人事」という視点でみても興味深い。
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