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自民と立憲の「年金密約」——茶番国会と大連立への伏線

国会終盤、年金改革法案をめぐる自民・立憲の攻防が、実は最初から仕組まれた「出来レース」だった——。そんな疑念が永田町を覆っている。

注目を集めたのは、石破政権が提出した年金改革法案。当初の案には、基礎年金の底上げ策が盛り込まれていたが、その財源を厚生年金から流用するという内容に、サラリーマン層を中心に反発が強まった。与党内からも「参院選にマイナスだ」との声が上がり、政府はこの「危険な部分」を削除して法案を提出した。

ところが、基礎年金の底上げを削除すれば、将来的に給付水準は約3割も減るとされ、特に厚生年金に加入できなかった「就職氷河期世代」が高齢化した際、生活保護に頼らざるを得ない状況が懸念されていた。こうした危機を背景に、マスコミは「就職氷河期世代の切り捨てだ」と強く批判した。

立憲民主党の野田佳彦代表も「アンパンの中身(あんこ)がない法案」と強く非難し、法案の再修正を要求。応じなければ内閣不信任案を検討すると圧力をかけた。

だが、石破総理はあっさりと立憲の要求を受け入れ、修正に応じる姿勢を見せた。これで野田代表は「立憲の要求で法案を改善させた」と実績をアピールできる。一見、与野党が対立した末に妥協したように見えるが、実態はまったく異なる。

この法案の修正協議に当たったのは、立憲の長妻昭氏と自民の田村憲久氏。いずれも元厚労相であり、法案の原案に深く関わった厚生族だ。両者が実務者協議に臨んだ時点で、合意は既定路線だった。

つまり、自民が一度あんこを抜いて法案を出し、立憲が「中身がない」と批判し、最後に元の案に戻すという、筋書き通りの出来レースだったのだ。

この「筋書き」は年金法案にとどまらない。

今年初めの予算案審議でも、同様の「茶番」が繰り広げられていた。石破政権は高額療養費の自己負担引き上げを盛り込んだ当初案を提示。野田代表が反対し、最終的に削除されたことで「立憲の成果」とされた。

しかし、これもまた「立憲に花を持たせ、代わりに年度内予算成立を確保する」というバーター取引が水面下で成立していた可能性が高い。

ここで重要なのは、内閣不信任案の行方だ。

現在の衆院は、野党が過半数を占める「少数与党国会」だ。不信任案が提出されれば可決の可能性が高く、そうなれば石破総理は衆参ダブル選挙か、内閣総辞職の判断を迫られる。内閣支持率が2割台の現状で、ダブル選挙は現実的ではない。政権にとって、不信任案提出の回避は至上命題だった。

ここでも再び、野田代表との密約が浮上する。石破政権は基礎年金案を修正して立憲に花を持たせることで、不信任案の提出を見送らせる。これが、双方の利益にかなった「密約」だ。

野田代表は最終的に「トランプ前大統領の関税ショックによる国難の最中に、政治空白を生むわけにはいかない」として提出を見送る方針だが、これはあくまで口実にすぎない。実際には、最初から提出しない約束が交わされていたとみるのが自然だ。

この一連の流れが示唆するのは、自民と立憲による「大連立構想」の伏線である。石破政権を支える森山幹事長と、立憲を束ねる野田代表、安住淳予算委員長。彼らの間に築かれた信頼関係は、やがて連立へとつながっていく。

財務省がこの連立を後押しし、消費税増税を視野に入れているという見方も根強い。大連立で「安定政権」をつくり、社会保障財源としての増税を正当化するのが狙いだ。

もちろん、参院選までは野党と与党が正面から手を組むことはできない。だからこそ、表向きは対立し、水面下では握手する——これが、今の永田町の現実だ。

石破政権に批判的な麻生派や茂木派は、国民民主党の玉木雄一郎代表を担ぐ別の連立構想を模索している。これに対抗するかたちで、森山幹事長は野田代表と手を結び、「党内の敵」を封じ込めようとしているのだ。

内閣不信任案の提出見送りは、参院選後の大連立への布石である。その是非はさておき、問題は、その裏側で有権者がだまされている点にある。

私たち国民が問うべきは、「自民と立憲は、選挙後に手を組むつもりなのかどうか」——その一点である。茶番のような政局の裏で、大連立のレールが敷かれているなら、参院選でこそ、はっきりと説明責任を果たさせなければならない。