石破茂首相の続投に「賛成」が「反対」を上回った──。8月13日、NHKがそう報じた瞬間、永田町はざわめいた。政権の足元を揺さぶる不信任論や退陣論が飛び交う中、世論の後押しは石破氏にとって最大の武器だからだ。だが、この「世論」の実像は大きく揺らいでいる。
問題の発端は、NHKが8月9日から11日にかけて行った電話世論調査である。固定電話457人、携帯電話680人、計1137人から得た回答によれば、石破続投に「賛成」49%、「反対」40%。数字だけ見れば、世論は石破支持に傾いているように映る。
だが、弁護士でジャーナリストの楊井人文氏が、この調査結果に異議を唱えた。
楊井氏はヤフーに寄稿した記事で、NHK調査の回答者が高齢層に偏っていた事実を指摘する。実際の有権者の年齢構成に応じて補正をかけると、「賛成45.0%」「反対47.5%」と逆転。もしこの補正値が正しいとすれば、石破首相が「世論の支持」を根拠に居座る大前提は崩れ去る。
高齢層が押し上げた「石破支持」
年代別の数字を見れば偏りは一目瞭然だ。NHK調査では、石破続投への賛成は80歳以上で63%に達する一方、39歳以下では27%にとどまった。つまり、年齢が上がるほど「石破支持」が強まる構図だ。
ところが、電話調査の回答者はこの高齢層に偏っていた。例えば39歳以下は有権者全体の25.4%を占めるのに、調査回答者では11.4%しかいない。逆に80歳以上は有権者の12.3%に対し、回答者では18.7%。若年層が過小評価され、高齢層が過大評価されていたのだ。
この歪みを補正すると、「賛成」は45.0%、「反対」は47.5%になる。石破続投は「反対多数」に転じるのだ。
NHKは取材に対し、「高齢層の割合が高めになる傾向は課題」と認めた。だが、課題の自覚と報道の責任は別問題である。偏ったサンプルを「国民世論」として報じた責任は重い。
政党支持率にも潜む偏向
楊井氏の補正は、政党支持率にも影響を及ぼした。NHKの発表では自民29.4%、国民7.1%、立憲6.9%、参政6.8%だったが、補正後は自民24.7%、国民10.0%、参政9.4%、立憲5.6%と大きく変化する。
高齢層で支持の厚い自民・立憲は実力以上に高く出ていた一方、現役世代の支持を集める国民・参政は過小評価されていたことになる。とりわけ立憲民主党は顕著だ。70代での支持率は11.8%と突出しているが、40代ではわずか0.8%。こうした構造が世論調査全体を歪めていた可能性は高い。
参院選で立憲が予測を下回り、比例区で国民や参政に抜かれて第4党に転落した背景には、こうした過大評価が影を落としていたのではないか。
世論調査は「信頼の基盤」たりうるか
問題はNHKに限らない。他の大手メディアも同様に電話調査を行っており、回答者が高齢者に偏る構造的な問題を抱えている。しかも、多くの社は年代別の内訳を公表していないため、偏りの有無を検証することすらできない。
有権者は報道された数字を「国民世論」と信じて投票行動やSNSの発言に反映させる。政治家もまた、その数字を前提に政策や政局戦略を立案する。もしその数字が偏っていたとすれば、政治そのものが誤った土台に乗せられてしまう。
今回の指摘は、世論調査の信頼性そのものを問い直すものだ。マスコミ各社は調査手法の課題を正直に開示し、補正の方法を検討すべきだろう。それを怠れば、意図的に政権を支える「偏向報道」と非難されても仕方がない。