政治を斬る!

「NISA非課税」の裏側 国家が描くセルフ年金と消費税増税

「これは非課税です。税金ゼロです。」

そんな甘い言葉の裏に、国家の本音が隠れているとしたらどうだろうか。

将来不安のなかで生活を切り詰め、わずかな給料をNISAに積み立てる若者たち。最近では「NISA貧乏」という言葉まで生まれている。

一方、政治の世界では「食料品の消費税ゼロ」を掲げた高市早苗政権が総選挙で圧勝し、超党派の「国民会議」で減税議論が始まった。

NISAも減税も、一見すれば国民に優しい政策だ。だが国会の議論を丹念に追うと、その裏にある国家の本当の狙いが見えてくる。

キーワードは「セルフ年金」と「消費税増税」だ。


若者を襲う「NISA貧乏」

3月10日の衆院財務金融委員会。国民民主党の田中健衆院議員が、財務大臣の片山さつきにこう質問した。

「NISA貧乏という言葉、お聞きになったことはありますでしょうか」

田中議員は48歳、当選3回。銀行員から政界に転身した経歴を持つ。

彼はこう指摘した。「20代は投資額をすごく増やしている。しかし消費は伸び悩んでいる」「20代、30代の75%が公的年金には期待していない」「とにかくNISAだ。積み立て自体が彼らの目的になっている」。

若者が将来不安から生活を切り詰め、NISAに資金を回す。まさに「NISA貧乏」と呼ばれる状況だ。田中議員は「20代は投資も必要だが、自分への投資も大事な時期だ」と述べ、政府の見解を求めた。

これに対し片山大臣は「これはちょっとショックを受けたところです」と語りつつ、「仕事を始めた時から分散投資を始めるのは非常に有用」「積み立て自体の目的化は全く意図していない」と答弁した。

質問者に配慮しつつも、政府の基本方針は変えない。手堅い答弁である。

だが現実には、若者がいまやりたいことを我慢し、将来不安に備えてNISAに資金を回している。そこには日本経済の停滞が凝縮されている。

NISAは「少額投資非課税制度」の略で、投資で得た利益が非課税になる。年間最大360万円、生涯最大1800万円まで投資でき、長期投資ほど有利になる仕組みだ。若者や現役世代の資産形成を支援するというのが政府の説明である。

しかし、その裏には別の狙いがある。


「貯蓄から投資へ」という国家戦略

政府がNISAを推進する最大の理由は、「貯蓄から投資へ」という政策だ。

日本の個人金融資産は2000兆円を超えるが、その半分以上が現金や預金として眠っている。これを株式市場に呼び込み、株価を押し上げる。これが政策の本音である。

日本経済は長年、賃金も設備投資も伸び悩んできた。一方で右肩上がりを続けてきたのは株価だ。

円安政策によって海外マネーを呼び込み、株式市場を押し上げる。自民党政権はその構図を維持してきた。若者や現役世代の資金を投資市場に呼び込むNISAは、その延長線上にある。

だがもう一つ、さらに重要な目的がある。

それが「セルフ年金」である。

少子高齢化が進む日本では、今の若者世代が引退する頃、公的年金だけで生活水準を維持するのは極めて難しいと見られている。政府の本音は、足りない分は個人の資産運用で補ってほしいというものだ。

つまりNISAは、政府が旗を振る「自己責任型の年金制度」とも言える。

これまで老後の生活は公的年金が支える仕組みだった。しかし財政の余力が乏しくなり、国家は個人の資産形成に頼らざるを得なくなっているのである。


「社会保障国民会議」の正体

同じ日の衆院財務金融委員会では、もう一つのテーマが議論された。高市政権が設置した超党派の「国民会議」である。

質問に立ったのは、中道の岡本三成政調会長。ゴールドマン・サックスで執行役員を務めた後に政界入りした人物だ。

岡本氏はこう疑問を呈した。

「これまで『国民会議』と言われていた会議の名前が突然『社会保障国民会議』に変わっている」「もともと議論するのは『給付付き税額控除』だったのに、選挙後に『食料品の消費税ゼロ』が入ってきた」「さらに最近は『社会保障の負担と給付』まで議論すると言い出した」。

つまり、会議の目的がどんどん拡大しているという指摘である。岡本氏は核心に踏み込み、「増税も議論するのか」と問いただした。

これに対し片山大臣は、「まずは給付付き税額控除と、実施までの2年間のつなぎとしての食料品消費税ゼロを議論する」「その過程で明らかになった社会保障制度の課題について協議を継続する」と答えた。

非常に明晰な答弁だ。だがその言葉は、同時に本音を示していた。

給付付き税額控除の先にあるテーマは「社会保障制度の課題」。つまり社会保障財源の確保である。


結局は消費税増税なのか

給付付き税額控除とは、簡単に言えば所得税減税だ。ただし所得税を納めていない人には恩恵が少ないため、低所得者には現金給付を組み合わせる仕組みになる。

高齢者の多い非課税世帯にも、若い現役世代にも恩恵がある政策として設計されている。

しかし財務省は基本的に減税に消極的だ。特に消費税減税には強く反対してきた。給付付き税額控除は、その代替案として受け入れられた側面がある。

だが財務省の本音はそこで終わらない。給付や減税を行えば、いずれ財源を確保する必要がある。

そこで浮上するのが、消費税増税だ。

国民会議の名称がいつの間にか「社会保障国民会議」に変わったのも、その議論を視野に入れているからだろう。

消費税増税は政治的に極めて難しい。与野党が対立すれば実現できない。だからこそ超党派の会議で合意形成を進める――それが財務省の戦略とみられる。

NISAは老後を自己責任で支える「セルフ年金」。そして国民会議は、社会保障財源を確保するための消費税議論の舞台。

非課税や減税という言葉の裏で、国家は長期的な財政戦略を着々と進めている。

私たちはその構図を見抜き、自分の頭で判断していく必要がある。