自民党の裏金事件で党員停止１年の処分を受けた安倍派５人衆のひとり、西村康稔前経産相が５月上旬、地元・淡路島の料理店に支持者ら１０人ほどを集めた飲み会の録音データをAERA.dotが入手して報じた。地元で気を許したのか、西村氏の発言からは「ホンネ」があからさまに見て取れる。
主な発言をみていこう。
①総裁選について
西村氏は自民党執行部が決めた裏金処分で、同じ安倍派５人衆だった世耕弘成氏のように「離党勧告」を突きつけられることは免れたものの、最大のライバルである萩生田光一氏の「党の役職停止１年」と比べれば重い「党員停止１年」となった。
萩生田氏が自民党都連会長にとどまり、９月の自民党総裁選に向けて、７月の東京都知事選でも暗躍しているのに比べ、西村氏は９月総裁選に参加することさえできず、大きく遅れをとったのは間違いない。これまでポスト岸田に意欲を示してきたが、一気に求心力を失う危機に立っているといえるだろう。
地元でそうした見方が広がれば、ただでさえ裏金事件で逆風を浴びているのに、さらに「西村離れ」が広がり、次の総選挙で落選する恐れさえ出てくる。この飲み会は「西村は健在だ」とアピールする狙いで開催されたとみて間違いない。
西村氏はポスト岸田について「河野太郎、小泉進次郎ってわけにいかん。いまさら石破か」と分析したうえで「今回、自分が出れば （安倍派の）100人かたまっていれば、一番、チャンスがあった」と未練をにじませた。そのうえで「今も何十人か私を慕ってくれている。他の派閥も流動化していて、６０〜７０人束ねられたらと思っている」と豪語したのである。
実際は安倍派は解散し、中堅若手には５人衆への批判が広がっている。そのなかでいちばん影響力を残したのは萩生田氏だ。さらに中堅若手には新しいリーダーとして清和会を創設した福田赳夫元首相の孫である福田達夫氏を担いで世代交代を目指す動きもある。西村氏のもとへ６０〜７０人が結集しているという状況にはない。
地元でそのような見方が広がることを恐れ、求心力維持に躍起なのだろう。
西村氏は「官房副長官、コロナ担当大臣、経産大臣。みなさんとゆっくり話せる機会がなかった。来年4月まで党員資格停止なので、ある意味自由に帰って来られる。ええ機会をいただいた」とも強気を装った。むしろこの発言の方が西村氏の現況を映し出しているといっていい。
②解散総選挙について
西村氏は、岸田首相が主導した定額減税について「もともと私は減税反対やった。それやったら（現金）配れと。4万円、5万円、ひとりひとり配ったほうが、なんか嬉しいやないですか。それを言ったら、岸田さん、閣僚会議で私に『絶対言わんといてくれ』ってね」と裏話を披露した。
これも「岸田首相に物申す大物ぶり」をアピールする意図であろう。都知事選への動向に注目が集まる小池百合子知事の学歴詐称疑惑についても「カイロ大学、あれは出てない説が強い。首席（卒業）はないわ。（今後の選挙で）どれだけダメージがあるかや」と分析してみせた。
最大の関心事は、解散総選挙の時期だ。西村氏としては裏金事件への批判が収まるまで、できるだけ先送りしてほしいのが本音に違いない。
「（今国会で）内閣不信任案が最後出てくる。否決か解散するか。まあ（内閣総）辞職はせえへんから、（岸田文雄首相）けっこう強気なんよね」と語った上、「野党から内閣不信任案が出たら、岸田さんは選挙、やけっぱちでやるのかな」と不安をにじませた。
そのうえで「1年以内の解散総選挙だと、無所属で出馬することになる。ただ地元から（刺客となる）自民党候補が出るわけではない」と強気の姿勢を見せながらも、「明石の（泉房穂）前市長が立憲（民主党）から出てくるのか、無所属で出てくるのか。それとも私と維新だけの選挙なのか。前の市長が（兵庫9区から）出てくるなら、明石は血みどろの争い。だから、淡路島でしっかり足元をかためて勝ち上がる」とも語った。
やはり泉房穂氏の出馬を最も警戒しているのは間違いない。明石市での劣勢を覚悟し、淡路島で圧勝して競り勝つ戦略を描いているのが見て取れる。
⑤珠洲原発について
看過できないのは、能登半島にかつて建設計画があったものの、住民に反対運動で撤回された珠洲原発をめぐる発言だ。
「珠洲は原発に反対したんや。（被災地に行くのに）金沢市から2時間半くらいかかる」
年初に発生した能登半島地震で、珠洲市では大きな被害が出た。震災対応でアクセスが大きな問題となったことについて、「原発建設に反対したから交通網の整備が進まず、その結果として災害対応が遅れた」といわんばかりの発言である。
さすがにこの発言には参加者から「（原発を建設していれば地震で）ヤバかった？」と疑問の声が出た。今回の能登半島地震では珠洲市周辺で土地の隆起が相次いで発見されており、原発ができていれば大惨事につながった可能性は否定できない。
ところが、西村氏は「能登半島の地震は1000年に1回や。なんべんもくるもんやない、1000年に1回や。原発作ったらええ」と言ってのけたのだ。
能登半島地震の惨状を目の当たりにしながら、原発計画を撤回に追い込んだ地元住民の活動について、このような認識しか持ち合わせていないことは、裏金事件そのもの以上に、西村康稔という政治家の本性を如実に表しているといえるのではなかろうか。