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野田佳彦“豹変”の真意──「食料品消費税ゼロ」の裏にある増税大連立シナリオ

参院選を控え、政界が静かにきな臭さを増している。そんな中、注目を集めたのが立憲民主党の野田佳彦代表による「食料品の消費税ゼロ」方針の打ち出しだ。かつて「ミスター消費税」とも称された野田氏が、自らの信念に背いてまで減税に舵を切った理由は何なのか―。

背景には、党内の激しい路線対立と、財務省との複雑な関係、そして参院選後を見据えた政界再編の構想がある。

減税論の高まりと党内の分裂危機

立憲民主党はここ1年、減税を訴える国民民主党に支持率で後れを取りつつある。とくに物価高騰と株価の下落に見舞われる中で、有権者の「減税待望論」は一層強まっていた。

そんな中、党内では江田憲司氏が減税を掲げる勉強会を立ち上げ、70人を超える議員が参加。食料品に限定した消費税ゼロ案が支持を広げていった。

一方で、創設者である枝野幸男元代表はこの流れに真っ向から反発し、「ポピュリズムに走りたいなら他党でやってほしい」と発言。これが火に油を注ぎ、党内は分裂の危機に陥った。

このままでは減税派が離党し、国民民主党に合流して野党第一党の座を奪われかねない。党の瓦解を避けたい野田代表は、増税路線に固執する姿勢を翻し、減税に歩み寄る決断を下したのである。

財務省との「時限的減税」密約

だが、この方針転換は一時的な“迎合”にすぎない。

野田氏が財務省と強固な関係にあるのは広く知られるところだ。民主党政権の首相として、かつて自公民の三党合意で消費税増税を実現させた当時、財務官僚の新川事務次官や宇波主計局長はその現場を支えた中心人物であり、現在も中枢にいる。

財務省が恒久減税を極端に嫌うのは明白だ。だが「一時的」ならば、現金給付のような“例外措置”として容認できる。そして、選挙後に「税率を戻す」ための法制度や仕掛けを仕込んでおけば、減税分は取り戻せる。

今回の「食料品の消費税ゼロ」は、まさにそのような「増税を前提とした時限的減税」に他ならない。参院選を乗り越えるための方便にすぎず、その先には、自民・立憲・財務省による「増税大連立」が用意されている可能性がある。

自民党との“密かな連携”と減税包囲網

野田氏の減税方針転換は、当然ながら自民党にも波紋を広げている。このままでは参院選で減税反対の立場をとるのは自民党だけになってしまうからだ。

野田氏と財務省が手を組み、減税カードを切った以上、自民党が「減税反対」を貫く義理はもはやない。

現在、自民党の主流派を率いるのは、石破茂総理、森山裕幹事長、林芳正官房長官ら。いずれも財務省に近く、野田氏と水面下で連携しているとの見方がある。

自民が立憲に歩調を合わせて減税案を出せば、「減税の是非」は参院選の争点ではなくなり、国民民主党の勢いを止めることができる。野党第一党の座を国民民主に奪われずに済めば、選挙後に野田氏を取り込んだ「増税大連立」に進む道が見えてくる。

つまり今、政界には「減税の仮面をかぶった増税包囲網」が形成されつつあるのだ。

減税派の岐路──「恒久減税」か「一時迎合」か

この状況にどう対抗すべきか。カギを握るのは国民民主党とれいわ新選組である。

国民民主党が掲げる所得税減税やガソリン税廃止は恒久的な減税であり、財務省が嫌うものだ。だが「消費税5%」の方針は時限的であり、財務省との妥協余地もある。財源論に踏み込むことで、知らず知らずのうちに“土俵”を財務省側に移してしまいかねない。

一方で、れいわ新選組は「消費税そのものの廃止」を訴え、税の不公平さそのものを問うている。財源論を超えて、構造そのものに異議を唱えるこの姿勢は、財務省との妥協を拒む明確な対立軸となっている。

今後、国民民主党が自公と連立を組めば、財務省の影響を受けて減税色が薄れるのは避けられない。そのとき、「減税派の旗手」の座をれいわに奪われる未来も見えてくる。

政界再編の行方と三つのシナリオ

参院選後、政界再編が現実味を帯びる中で、いくつかのシナリオが浮上している。

  • 自民・公明・立憲による「増税大連立」(野田再登板案)
  • 自民・公明・国民による「減税型連立」(玉木新首相案)
  • 自民・公明・維新による「現状維持連立」

いずれの道を選ぶかによって、財政政策の方向性も大きく変わることになるだろう。