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野田立憲が救った石破政権──参院選後に吹き荒れる「大政局」を読む

今国会最大の山場となるはずだった内閣不信任案が、まさかの提出見送りへ──。
それも、与党側ではなく、野党第一党・立憲民主党の野田代表による判断だった。

30年ぶりに少数与党となった石破政権。
本来なら、内閣不信任案を可決すれば、石破総理は内閣総辞職か衆院解散の決断を迫られる絶体絶命の局面だった。支持率が低迷する石破政権にとって、衆院解散など論外。退陣するしか道はないと見られていた。

しかし、事態は急展開を見せた。
野田代表は、フジテレビの番組で「アメリカ・トランプ政権による関税発動が90日間停止された」と語り、「日米交渉の最中に政治空白をつくるべきではない」と、内閣不信任案提出への慎重姿勢を示したのである。

これは事実上の提出見送り表明だった。

衆院で内閣不信任案を提出するには、51人以上の賛同が必要だ。維新や国民民主党単独では足りない。提出可能なのは、立憲民主党のみ。
つまり、野田代表が提出を断念すれば、それだけで内閣不信任案は不成立になる。
最大の攻勢局面で、石破総理を救ったのは、皮肉にも野党第一党の立憲民主党だった。

だが、鮫島タイムスはこの展開を、すでに正月時点で予測していた。
理由は単純だ。立憲にとって、内閣不信任案を出してもメリットがないからである。

仮に可決し、石破内閣が総辞職すれば、総理指名選挙が行われる。ここで立憲・維新・国民が結束して政権を奪取できるならまだしも、現実にはその機運はない。
逆に、自民党内では「玉木雄一郎・国民民主党代表を担ぎ、国民民主を取り込む」という自公国連立構想が浮上している。
また、石破総理が衆院解散に踏み切った場合、支持率の高い国民民主党が大躍進し、立憲は野党第一党の座を奪われかねない。
どちらに転んでも立憲に勝ち目はない。
だからこそ、内閣不信任案提出を野田代表は「出したくない」と考えていたのだ。

さらに、野田代表には個人的な政略もある。
参院選後、財政規律重視を掲げる自民党主流派──森山幹事長らと手を組み、「自公立」大連立を目指していると見られる。
減税を訴える国民民主らとの対決軸を作り、野田代表自身が「連立政権の総理候補」として担がれる可能性を狙っているのだ。

この思惑にとって、今の段階で自民党と真正面から対決する内閣不信任案提出は、障害でしかない。
そこで持ち出されたのが「トランプ政権の関税発動停止」という格好の口実だった。

アメリカ・トランプ政権による関税24%の発動は、90日間の猶予を得た。
つまり、7月半ばまでの参院選期間中、日米交渉が最大の山場を迎える。
そんな時期に政治空白を生み出すべきでない──野田代表はそう訴えた。
「石破を救った野田」「野田を救ったトランプ」という奇妙な構図が、ここに成立したのである。

このトランプショックは、単なる口実づくりにとどまらない。
参院選後、自民党と立憲民主党が大連立を組む「大義名分」としても利用できる。
野田代表にとっては、まさに「神風」だったと言えるだろう。

では、参院選後の政局はどう動くのか。

今国会は6月22日に閉幕、7月3日に参院選公示、7月21日に投開票が行われる見通しだ。
自民党は惨敗必至。改選議席の過半数を確保するのは極めて厳しい情勢だ。

だが、3年前の参院選で自民党は圧勝しており、非改選議席が多い。
そのため、今回大敗しても「参院全体」で自公与党が過半数を維持できる可能性は残る。
石破総理は、勝敗ラインを「改選過半数」ではなく「参院全体で過半数」にすり替え、敗北のダメージを最小限に抑えようとしている。

とはいえ、選挙で大敗した総理の求心力は大きく低下する。
自民党内でも「石破おろし」が噴き出し、立憲との大連立協議が水面下で進む可能性が高い。

想定されるシナリオはこうだ。

参院選後、自民党の森山幹事長と立憲民主党の野田代表、安住衆院予算委員長らが極秘に大連立交渉を進める。
合意に達した段階で、石破総理が退陣を表明。
直ちに総理指名選挙が行われ、野田代表が新たな総理に選出され、自公立連立政権が誕生する。

しかし、ここでカギを握るのが、自民党内の反主流派──麻生副総裁、茂木幹事長代理、旧安倍派の萩生田光一氏らの動きだ。
彼らが大連立に反対し、国民民主党の玉木代表を担ぐ「自公国連立」に動く可能性もある。
与野党を巻き込んだ壮絶な権力闘争が繰り広げられるだろう。

立憲民主党の内閣不信任案見送りは、こうした大政局の火種を温存し、参院選後に爆発させるための布石にすぎない。
7月の参院選が、政界再編の命運を大きく左右することになるのは間違いない。
私たちの一票が、日本政治の未来を決めるのだ。