立憲民主党の野田佳彦代表が、参院選後の自公与党との大連立について「考えていない」と発言し、メディア各社はこれをもって「大連立を否定」と報じた。
だが、この言葉を額面通りに受け取るのは早計すぎる。むしろ、それこそが政治の「常套句」であり、有権者をミスリードしかねない言葉なのだ。
いまの段階で「大連立する」と口にすれば、立憲民主党は選挙戦を戦えなくなる。だから「今は考えていない」と言って選挙をやり過ごし、選挙後に「国難」などの理由を掲げて、いとも簡単に方針転換する。この構図は過去にも何度も繰り返されてきた。
たとえば、石破内閣への不信任案を立憲が提出しなかった際も、すでに見送りを決めていたのに、あたかも「国際交渉の影響を考慮して」判断したかのように装った。
本当に大連立を否定するなら、「参院選後も含めて、立憲が自民・公明と連立することは一切ないと、国民に約束できますか?」という問いに、明確に「はい」と答えるべきだ。だが野田氏の回答は「今は考えていない」だけ。つまり、大連立の可能性を完全には否定していないのである。
さらに見過ごせないのが、野田氏が「野党連立政権」も否定している点だ。国民民主や維新などとの連立について「そう簡単ではない」「単独政権を目指すべきだ」と語っている。だが、今の立憲に単独で政権を取れる力はない。つい先日まで支持率で国民民主党に後れを取っていた政党が、単独政権など夢物語でしかない。
この発言の裏には、そもそも野党で政権を取る気がない、という本音がにじむ。つまり、「政権を目指さない野党第一党」という、きわめて居心地のいいポジションを維持しつつ、いざとなれば自民党と手を組んで政権入りする道を残しているということだ。
実際、野田氏は「給付付き税額控除」の実現を大連立の理由にするか、という問いに対しても「一つの政策だけではそんな大胆なことはしない」と述べている。これも、「複数の重要政策で一致すれば大連立を考える」という地ならし発言と捉えるべきだ。
参院選の勝敗ラインの設定にも、野田氏の「逃げ」が見える。彼は「改選過半数割れ」を立憲の勝利条件とした。だが、与党は改選過半数(63議席)を下回っても、非改選を含めれば参院での過半数(125議席)を維持できる。自民党や公明党は「改選で50議席以上」を勝敗ラインに掲げているため、両者の主張が並び立つ可能性がある。
つまり、最終的に「与党は50議席以上を獲得」「しかし63議席には届かない」という結果になれば、石破首相も野田代表も、それぞれ「勝利宣言」できてしまう。これは完全な政治ショーであり、有権者に対する欺瞞にほかならない。
しかも、与党が改選過半数を割った場合、野党は過半数を獲得していることになる。それならば、野党連立で政権交代を狙うべきなのに、野田代表はそれを否定している。この論理の矛盾を、メディアはなぜもっと厳しく追及しないのか。
さらに、公明党の斉藤代表も「小選挙区制では大連立は困難」と語っているが、これも選挙後の大連立の可能性を完全に否定するものではない。
次の衆院選までは3年ある。任期の途中で、期間限定の「政策連立」ならば十分に可能だ。その間に財務省主導で「消費税増税」を実現し、石破、野田、森山ら“財務族”の政治家たちは、引退を視野に「最後の花道」を飾るという筋書きが、すでに描かれているのではないか。
今、問われているのは、メディアの役割である。「今は考えていない」という言葉をそのまま報じるのではなく、「将来にわたって大連立は絶対にないと約束できるのか?」と問い続ける責任がある。
そうしなければ、選挙後に突如始まる「自民・立憲・公明による大連立協議」に、有権者はまたしても裏切られることになるだろう。
この夏の参院選、有権者の「選択」は、野党共闘による政権交代の可能性か、それとも「既定路線の大連立」かを決定づける、極めて重要な分岐点となるはずだ。