リッター25円上乗せされてきたガソリン税の暫定税率が、今年大晦日にいよいよ廃止される。消費税分の影響を除けば、約15円の実質的な値下げだ。消費者にとっては歓迎材料だが、本質はそこではない。
この減税は、税制の決め方そのものが大きく転換しつつあることを象徴している。長年、財務省と自民党税調が牛耳ってきた“税の聖域”が、いま崩れ始めているのだ。
今回のガソリン税廃止は、自民・維新の連立与党だけでは実現しなかった。衆参ともに過半数に届かないため、立憲、国民、公明、共産の野党4党との実務者協議が不可欠だったのである。そして高市政権は、石破政権が拒み続けた野党の減税要求を受け入れた。これにより、税制決定の主導権は“密室の自民党税調”から“与野党協議”へ移る可能性が生まれた。
この変化を決定づけたのは、高市総裁による人事だ。
財務省と連携し「ラスボス」と称されて自民党税調のインナー(非公式会合に参加する幹部)を率いる宮沢洋一会長、「影の総理」と呼ばれた税調顧問の森山裕前幹事長がそろって税調から退場し、長年の牙城が崩れた。一方、新たに税調会長となった小野寺前政調会長は非インナーであるとはいえ、財務省寄りと目される人物。財務省は“全面敗北”を回避し、最低限の布陣を残した格好だ。
財務省は負けてはいない。ガソリン税の暫定税率廃止で失われる税収1.5兆円の穴埋めとして、代替財源の確保の検討を与野党合意文に盛り込むことに成功した。
「安易に国債発行に頼らない」「安定財源を確保」——財務省が長年掲げる“財政収支均衡”路線を維持する一文だ。
すでに自動車重量税の増税案が浮上している。
減税分を別の増税で埋める——これでは景気刺激効果は生まれない。これこそが、財政規律派と積極財政派の根本的対立軸である。
高市政権は財務大臣に片山さつき氏、経済財政担当に城内実氏を起用し、積極財政色を明確にした。だが財務省は高市氏に“責任ある積極財政”というマジックワードを植え付けつつある。「責任ある」とは、裏返せば「財源確保の範囲で」。つまり財政規律派の枠内で積極財政をやれ、というメッセージだ。
財務省のもう一つの武器はマスコミだ。
オールドメディアの経済部は右も左も財務省寄りで、今回も「安定財源なき減税」「結論を先送り」と論調を揃えた。財務省は世論戦でも守勢に回らない。
今後、税制は与野党協議のテーブルで決まる時代に移る可能性がある。次の焦点は「所得税減税」、すなわち“年収の壁”問題だ。財務省は時間稼ぎを図りながら、高市総理を徐々に包囲するだろう。
果たして高市政権は、与野党の積極財政派と連携し、財務省の包囲網を突破できるのか。
ガソリン税減税は単なる生活支援策ではない。
これは、税制権力を誰が握るのか——その主導権争いの幕開けなのである。