年収103万円の壁(所得税の非課税枠)の引き上げをめぐり、自民党の小野寺五典政調会長の反論が炎上している。小野寺氏がテレビ番組で発言した要旨は以下だ。
・国民の6割は納税していない
・納税者への減税よりも、国民全体をみるべき
・6割の低所得者は物価高に苦しんでいる
・減税よりも給付を重視すべきだ
小野寺氏の「納税していない6割」は所得税のことであろう。ネットでは「納税者は4割だけしかいないのか」と驚きの声が広がっているが、6割のなかには所得が少なくて納税していない人に加え、現役を引退した高齢者も多数含まれている。
小野寺氏は所得税を減税して4割の納税者に恩恵を与えることよりも、6割の非納税者を含む国民全体の利益を重視して予算を編成しなければならないと主張したわけである。主張そのものは筋が通っているが、このような言い方をして減税政策を否定すれば納税者が「なぜ税金を払っている我々だけが損をするのか」と怒るのは当然だ。
小野寺氏の発言にはより本質的な以下の問題点がある。
①所得に偏った課税制度
6割の低所得者の多くは高齢者である。その高齢者には、資産が不足しているため歳を重ねても働き続けている人もいれば、資産が十分にあるため働かずに所得がない人もいる。所得にばかり課税すれば、資産が不足しているので働き続けている人は不公平感を感じるだろう。資産が十分にあって働いていない人が低所得者向けの給付を受け取ることは、さらに不公平感を増幅させる。
所得と資産の双方に注目して経済力をはかることが不公平感を解消するには絶対に必要だ。
②国民全体の予算になっていない
納税者だけではなく国民全体をみて予算をつくるというのは正論だが、実際の予算は自民党を支援している業界に偏り、納税者は恩恵を感じられていないのも大問題だ。
業界への補助金や減税ばかりが先行し、国民への直接給付や減税は後回しになってきた。コロナ対策でそれは浮き彫りになった。GOTOトラベルは旅行者に直接支払われずに旅行業界に補助金が支給されたし、医療従事者への支援金も看護師ら現場で働く人々に直接給付されずに医療法人に支給された。
自民党政権はつねに国民への直接給付を嫌い、政治献金や天下りというかたちで見返りが期待できる業界への支給を優先する。そこで中抜きが発生し、国民は恩恵を感じられていないのだ。
直接給付を期待できないのなら、そもそも税金を払いたくはないという思いが納税者に込み上げてくるのは自然なことであろう。納税者の怒りがそこまで高まっていることに、小野寺氏はあまりに鈍感だというほかない。
③財政収支均衡のウソ
財政の収支を均衡させるために、本当に必要な政策をあきらめる必要はない。
財源論のウソについてはこれまでもたびたび指摘してきた。
財務省が政治力を維持するために流布した「財政収支均衡」という幻想〜税金の役割は①お金の量の調整(過剰なお金の回収)②富の再分配(貧富の格差是正)③健全な社会の維持(社会的マイナスの経済活動の抑制)であり「財源確保」ではない!
小野寺氏の主張が「財政の収支を均衡させなければならない」という財務省の論理のうえに立っていることは明白だ。これは立憲民主党など野党の多くと同じである。
ここから脱却しない限り、本当の意味で「国民のための予算」がつくられることはない。