大阪万博の会場建設費が当初の倍近く、2350億円に膨れ上がり、世論の批判が噴出している。岸田文雄首相は「これ以上は増えない」と説明してきたが、臨時国会の審議で新たに国費837億円の負担が生じることが判明した。
岸田首相は「会場建設費とは別」と答弁したが、これまで国民を欺いてきたとの批判は免れない。
なぜ、後からボロボロと追加負担が発覚するのか。マスコミが報じない理由を解説したい。
政府と大阪府・市は当初、大阪万博の会場建設費を1250億円としていた。これを国、大阪府・市、経済界で三分の一ずつ負担するという仕組みだった。
ところが、円安による物価高や人手不足による工期の遅れで会場建設費は1850億円に膨らみ、さらに2350億円へ跳ね上がった。当初の1・9倍である。これに世論の怒りは沸騰した。
今回発覚したのは、この会場建設費2350億円とは別に、日本館建設、途上国支援、安全確保、機運醸成に新たに837億円が必要というものだ。
ほんとうにこれで終わりなのか。まだ追加費用出てくるのではないか。誰もがそう思うだろう。
実際、毎日新聞は「国費負担さらに1600億円 シャトルバスルート整備で」というスクープを放った。万博関連のインフラ整備費として、会場の人工島・夢洲と市街地を結ぶシャトルバスのルートなどの整備費にさらに約2900億円(国費負担は約1600億円)がかかるという内容である。
このような新たな負担について、官僚たちが知らなかったはずはない。それを岸田首相は知らされていなかったのだろう。それはなぜか。
岸田首相が6月、10月、そして年末と衆院の解散風を吹かせてきたからだ。
衆院解散が間近に迫るなかで、大阪万博のコスト増を明らかにすれば、岸田政権は世論の反発を受け、総選挙へ大逆風になりかねない。その結果、自民党や維新が大敗すれば、大阪万博の開催そのものが中止に追い込まれかねない。官僚にとってそれはもっとも避けたいシナリオだ。
それ以前に、解散総選挙が迫る時点で、岸田首相に「大阪万博のコストはさらに増えます」という都合の悪い情報をあげたら、よい顔をされないことは決まっている。それどころか、岸田首相に嫌われて人事で飛ばされるかもしれない。
官僚たちは、自らの保身のため、自ら嫌がられる情報を、権力者にはあげないものなのだ。どのようなタイミングで報告すれば良いか、常に間合いをはかっているのである。
総選挙が終わった後、万博開催が揺るがない時点になって都合の悪い情報を発表するーーというのが基本戦略だったに違いない。
ところが、政局情勢が一変した。岸田内閣の支持率が続落し、岸田首相が年内解散の見送りを表明。首相の求心力は急速に失われ、来春の予算成立後、国賓待遇の訪米を花道に退陣するというシナリオが浮上してきたのだ。
こうなると、官僚たちは一気に動く。
新内閣が発足すれば、ご祝儀相場のなかでただちに解散・総選挙が行われるだろう。だとすれば、その前に、つまり、去り行く岸田政権のうちに、都合の悪い情報はすべて出してしまったほうがよい。岸田首相に睨まれてもどうせ官邸から去っていくのだ。それよりは新しい首相に嫌われたくはない。いまのうちに「コスト増」をすべてオープンにして、すべて岸田首相になすりつけてしまおう!
これが官僚たちの本性である。
政権末期は官僚たちが都合の悪い情報を次々に持ってくるものである。こうして政権は加速度を上げて倒れていく。まさに岸田政権はこのような負の連鎖に立ち入ったのだ。