年末政局で、立場の逆転が鮮明になってきた。維新と国民民主。第三極の主役を争ってきた両党の明暗が、ここへきてはっきり分かれ始めている。
連立合意の柱だった「定数削減法案」の年内成立を訴え、高市総理と党首会談に臨んだ維新の吉村代表。だが、会期延長は受け入れられず、法案は来年の通常国会へ先送りされた。
一方、連立入りで出し抜かれたはずの国民民主は、玉木代表が高市総理と会談して悲願の「年収の壁178万円への引き上げ」を勝ち取る見通しをつけた。
吉村が沈み、玉木が浮かぶ。自民・維新・国民の三角関係に、明らかな異変が生じている。
維新暴落――定数削減を巡る完敗
12月16日、国会会期末を翌日に控え、吉村代表は大阪から上京した。定数削減法案の年内成立を諦めず、会期延長を強く求めていたからだ。ところが党首会談の結果は、今国会での審議入り断念。高市総理は「来年には成案を得るよう力を合わせたい」と、事実上の先送りを宣言した。
吉村代表のメンツは丸潰れだった。共同会見では野党に怒りをぶつける一方、高市総理には感謝を繰り返した。その夜、藤田共同代表と行った緊急生配信では、民主党政権時代の定数削減法案を「証拠物件」として示し、野田代表や安住幹事長ら立憲幹部の名とともに、国民民主・玉木代表の名前まで読み上げた。立憲だけでなく、国民にも宣戦布告した瞬間だ。
だが、維新の振る舞いは実態と食い違っている。自民党が本気なら、今国会で成立させる余地はあった。それでも動かなかったのは、自民にやる気がなかったからだ。にもかかわらず、維新は自民を批判できない。立場が極端に弱くなっているからである。
この日、補正予算案は、自民・維新に加え、国民、公明の賛成で成立した。維新が連立から離脱しても、自民は国民と公明の協力で政権運営ができる。そうした手応えを自民が得たことで、維新の価値は一気に暴落した。連立から追い出されないため、自民にしがみつくしかなくなったのだ。
定数削減は事実上の棚上げ
そもそも自民党は定数削減に前向きではなかった。より嫌だったのは、維新を含む野党が求めていた企業団体献金の見直しである。その代替として、維新の要求を受け入れ、1年後に自動発動するという異例の定数削減法案を共同提出した。
参院では自民と維新は過半数割れ。衆院でもギリギリで、しかも政治改革特別委員会の委員長は立憲が握っている。こんな危うい法案は、どうせ通らない。だからこそ自民は安心して提出した、というのが実態だ。
高市総理が打ち出した「国勢調査の結果を踏まえ、協議会で成案を目指す」という方針は、野党合意を重視し、結論を急がない宣言にほかならない。どんなに早くても定数削減が実現するのは1年半後。その頃の政局は、誰にも読めない。今回の定数削減政局は、はっきり言って維新の完敗である。
国民民主が浮上――年収の壁178万円
維新と入れ替わるように、勢いを取り戻したのが国民民主だ。
吉村代表が大阪から上京する前日の12月15日、玉木代表は大阪で政治資金パーティーを開催。榛葉幹事長は「今週が山。最後は政策論、政局論、政治力だ」と断言し、高市・玉木のトップ会談で決着がつくとの見通しを示した。
ここまで言い切れるのは、178万円への引き上げに相当の自信を深めていたからだろう。石破政権時代に交わされた「178万円を目指す」という幹事長合意があり、今年度は160万円まで引き上げられた。だが、国民民主は中間層に恩恵が乏しいとして反発してきた。
静岡での政治セミナーでは、榛葉幹事長が「160万円まで上がったのは年収200万円までの人」と強調し、「中間層があまりにも軽視されてきた」と訴えた。玉木代表も「物価高で困っているのは低所得者だけではない」と語り、高市総理との真剣勝負に自信をにじませた。
連立組み替えの現実味
年末の高市・吉村会談と、高市・玉木会談。その明暗はあまりにも対照的だ。維新は軽んじられ、国民は存在感を高めている。定数削減の先送りと、年収の壁引き上げは、第三極の主役交代を象徴している。
決定的な違いは、議席構成だ。衆院は1月解散があればリセットされ、自民単独過半数の可能性がある。その場合、維新は不要になる。一方、参院では自民と国民を合わせればギリギリ過半数に届く。参院は次の選挙まで2年半もあり、国民と組む方が政権は安定する。
自民党内のキングメーカー争いも絡む。麻生副総裁は、公明や維新と距離を置き、国民民主との連携を深めてきた。1月解散で自民が単独過半数を回復すれば、維新を切り、国民と腰を据えて連立協議を進める――そのシナリオが現実味を帯びてきた。
維新が沈み、国民が浮かぶ。この年末政局は、連立組み替えへの第一歩だ。高市総理が解散に踏み切れば、連立相手の差し替えを伴う政界再編が、一気に動き出すことになるだろう。