政治を斬る!

「お米券」という名の物価高対策――消えた1枚60円と政官業癒着の正体

高市内閣が打ち出した物価高対策の目玉が「お米券」だ。
一見すると、米価高騰に苦しむ家計への支援策に見える。しかし中身をよく見ると、素朴だが決定的な疑問に突き当たる。

1枚500円のお米券で、交換できるのは440円分のお米だけ。
残りの60円はいったいどこへ消えるのか。

これは単なる制度設計の問題ではない。「物価高対策」を看板に掲げた、政官業癒着の象徴ではないのか―そんな疑念が、いま急速に広がっている。

高市内閣が編成した総額21兆円の大型経済対策。その中で「お米券」は、物価高対策の目玉として位置づけられている。新米が出回っても米価は4000円台に張り付いたまま。不満が高まるなか、初入閣の鈴木憲和農水大臣が前面に立って打ち出したのが、お米券配布という発想だった。

だが、政府や自治体が新たにお米券を刷るわけではない。
すでに存在するお米券を、税金で買い上げる。これが実態だ。

発行しているのは、「全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)」と「全国農業協同組合連合会(全農)」という2つの団体。政府は物価高対策として自治体に重点支援地方交付金を配り、自治体がそのメニューとしてお米券配布を選べば、この2団体からお米券を購入し、住民に郵送する。

仕組みは複雑で、自治体の担当者ですら理解していなかった。農水省への問い合わせが殺到していることが、その分かりにくさを物語っている。

だが問題は、分かりにくさだけでは終わらない。

この2団体が発行するお米券は1枚500円。しかし交換できるのは440円分。差額の60円は、印刷代、配送代、事務手数料といった「経費」として団体側に入る。経費率12%。仮に500億円分配れば、60億円が経費として消える計算だ。

これは税金の無駄遣いではないのか。

全米販は40年以上にわたりお米券を発行し、シェアは8割。年間650万枚が流通し、使える店は全国約2万。結婚・出産などの贈答品として、あるいは、企業のキャンペーン商品として利用されてきた。自治体が子育て世帯や非課税世帯への生活支援策として配ることもあったという。

そしてこの2団体は、自民党への選挙支援や農水省からの天下りをめぐり、以前から政官業癒着が指摘されてきた存在だ。今回の大型経済対策で、どれほどの税金が流れ込むかは未知数だが、「特需」が発生するのは間違いない。

米不足で米価が高騰した令和の米騒動。
農水大臣の失言、更迭、備蓄米放出、増産計画――そうした流れは、高市内閣の誕生で断ち切られた。鈴木農水大臣は増産路線を白紙撤回し、米価維持を軸とする従来型農政に回帰した。

消費者ではなく、農業業界の利益を最優先する農政。
その見返りとして、政治献金、選挙支援、天下りが循環する。これが日本の農政に根付いた政官業癒着の構造だ。「お米券」は、その象徴といっていい。

業界重視の物価高対策は、農政だけではない。電気・ガス代、ガソリン代も、現金給付ではなく業界への補助金が続いてきた。国民に直接配っても政治的な見返りはない。業界を経由すれば、見返りが期待できる。だから、現金給付は選ばれない。

税金で500円のお米券を配っても、中身は440円。
最初から現金500円を国民に配ればいい――誰もが思う疑問に、政治は答えない。

物価高対策の仮面をかぶった「お米券」。
それは、国民より業界を優先する、政官業癒着政治の縮図なのかもしれない。国会は、この補正予算をどう扱うのか。いま問われているのは、物価高対策の本気度そのものだ。