一般ドライバーが自家用車を使って有償で客を運ぶ「ライドシェア」の解禁を目指して、小泉進次郎元環境相が超党派の国会議員による勉強会を立ち上げた。会長に小泉氏、幹事長に維新の藤田文武幹事長が就任する方向だという。
小泉氏の親分格である菅前首相や、兄貴分である河野太郎デジタル担当相もライドシェアを推進している。維新とも連携し、ライドシェアをめぐる議論を盛り上げ、政治争点化する狙いがあるのは間違いない。
前回総裁選で岸田文雄首相に敗れた菅・河野・小泉の神奈川連合が、次の自民党総裁選に向けて、岸田・麻生・茂木の主流派に対抗する旗印として規制緩和を掲げる姿勢を鮮明にしたとみていいだろう。
麻生・茂木両氏を窓口として自民党に接近してきた連合の影響を受ける立憲民主党には、ライドシェアに対する慎重論が強い。
ライドシェア解禁の是非は、来年の自民党総裁選にくわえ、総裁選直後にあるとみられる解散総選挙でも大きな争点となりそうだ。
自民党では、小泉進次郎氏の父・小泉純一郎政権から規制緩和をめぐる党内対立が続いている。
小泉政権当初は竹中平蔵経済財政担当相と麻生太郎政調会長が激しく対立した。このとき、竹中氏とともに規制緩和を推進したのが菅氏である。
竹中vs麻生の対立は安倍政権に受け継がれ、菅官房長官vs麻生副総理兼財務相のナンバー2争いとして熾烈を極めた。
安倍官邸の権力私物化が問われた加計学園問題も獣医学部新設という規制緩和をめぐる「菅vs麻生」の暗闘だった。安倍官邸(菅)は獣医学部新設を後押しし、反対する業界側に立つ麻生氏と激しく対立したのである。
この戦いは菅氏の勝利に終わり、獣医学部新設は認められた。これに反発した側から権力私物化を示す内部文書などの情報がマスコミにリークされたとみられている。
安倍退陣後は菅氏が総裁選に勝利して首相に就任し、菅退陣後は麻生氏が擁立した岸田氏が菅氏が担いだ河野太郎氏に勝利して首相になった。現岸田政権では菅氏ら規制緩和派が非主流派に転落した格好だ。
岸田内閣の支持率が続落してが危険水域に入った今、菅氏ら規制緩和派がライドシェアを旗印に反撃を仕掛けたというのが今の構図である。
竹中改革を支持してきた規制緩和派の経済人や言論人にはライドシェアへの賛成論が強い。竹中氏が会長を務めた人材派遣会社のパソナをはじめ新興勢力には規制緩和推進論が広がっている。
規制緩和派が主張するのは、過疎地や観光地でのタクシー不足の解消だ。とくにインバウンド推進の立場から観光地でのライドシェア導入の必要性を訴える声が強い。
さらに規制緩和派の根底には、タクシーやバスなどの運輸業界が数々の規制に擁護され、保護されてきたことへの反発もある。規制緩和を進めて外資などの参入を促進し、競争原理を導入する狙いもある。ライドシェアについてもウーバーなど外資が参入する可能性は高い。
一方、反規制緩和派はライドシェアを解禁すればタクシー業界が壊滅的打撃を受け、①タクシーは一般庶民には手が届かない高額な乗り物となり、ライドシェアを利用するしかなくなる②ライドシェアは利用者が性被害を受けるという安全面の問題も海外では相次いでいるーーなどの問題点を指摘している。
はたしてライドシェア解禁が世論の強い支持を得て政治を動かす原動力になるのか、現時点では見通せない。
政局的に注目されるのは、石破茂元幹事長の動向だ。
石破氏は安倍政権下で徹底的に干され、石破派は解消に追い込まれ、党内基盤を失った。前回総裁選には出馬できず、河野氏支持に回り、以後、菅氏らの連携して非主流派の立場にまわっている。
一方、河野氏がマイナンバーカード問題で失速したことをうけて、世論調査の「次の首相」のトップに返り咲いた。安倍氏とライバル関係にあったことや過去に離党経験があることから、野党支持層に人気が高く、自民党支持層の人気はいまいちだったが、最近の世論調査では、自民党支持層でもトップに立つ人気回復ぶりである。
来年の自民党総裁選で菅氏が河野氏に代わって石破氏を擁立する可能性は十分にある。
ただ、石破氏はそもそも竹中的な規制緩和派ではない。政局的には菅・河野・小泉連合と連携しているが、政策的にはやや距離があるのだ。
はたして石破氏がライドシェアにのって最後の戦いに挑むのか。石破氏の動向に注目だ。