専守防衛を逸脱する反撃能力保有、原発の運転期間延長と新増設、そして統一教会の被害者救済の骨抜き法案…。
自民党が相次いで繰り出した「ダメダメ政策」に日本維新の会と国民民主党は賛成する方向だ。維新と国民を与党に引き込んで野党第一党の立憲と引き離すことを狙った自民党の野党分断工作である。
さてここで立憲はどう出るのか。
立憲は原発政策についてはそもそもぐらついている。枝野幸男氏が立憲を旗揚げした当初は脱原発を掲げていたが、民主党→民進党→希望の党→国民民主党の「政界渡り鳥組」が大量流入した後は、財界と一体化している連合の影響を強く受け、原発政策はあいまいになり揺れている。
反撃能力保有についても、玄葉光一郎元外相が会長を務める党外交・安保戦略プロジェクトチーム(PT)は賛成する方向で検討していると報道されている。
立憲はウクライナ侵攻の際も、ロシアを一方的に非難して米国から膨大な武器援助を受けて応戦するウクライナに加担する国会決議に与党とともに賛成し、国民総動員令を出して戦争を遂行するゼレンスキー大統領の国会演説も与党とともにスタンディングオベーションで称賛した。
米国が煽る台湾危機にも自民党同様、軍事的な備えを充実させるべきであるという声が立憲内部では強まっており、反撃能力保有の容認もその流れに沿って考えると賛成する可能性は十分にある(枝野氏が党名に「立憲」の名をつけたのは、解釈改憲で集団的自衛権の行使容認に踏み切り、憲法の平和主義から逸脱した安保法制を推進する安倍政権に対抗する意味を込めたからだった。反撃能力保有を容認するのなら、もはや「立憲」の看板は降ろすべきである。枝野氏はどう説明するつもりだろうか)。
原発政策や防衛政策をめぐり、国会には与党一色に染まる大政翼賛体制の足音がすでに近づいている。
そして統一教会の被害者救済法案である。
岸田首相は当初、被害者救済法案に及び腰な清和会(安倍派)や公明党を牽制するため、立憲民主党と日本維新の会に連携を呼びかけ、自公立維4党の実務者協議の場を設けた。
岸田官邸と立憲の急接近に対して、清和会や公明党ばかりか茂木敏充幹事長ら党執行部も警戒感を強め、国民民主党を引き込む自公国3党協議を並行して進めた。茂木氏は立憲を外して維新執行部と会談し「立憲外し」の姿勢を鮮明にした。
急速に出来上がった「岸田包囲網」を目の当たりにして、岸田首相は茂木氏ら自民党実力者と会談を重ねて党内融和に転じ、原発政策の転換や反撃能力の保有、補正予算の増額などで譲歩を重ねたのである。
このような経緯のなかで取りまとめられた政府提出の被害者救済法案は、清和会や公明党への譲歩が前面に出る内容となった。信者が献金する際に自由な意志を抑圧しないように「配慮義務」を求める内容にとどまり、立憲が求める「禁止」には踏み込まず、被害者や弁護団から「骨抜き」と強く批判されたのである。
しかし国民民主党はこの政府案に賛成する方針を決め、維新も賛成する方向だ。立憲と維新・国民民主の間に打ち込む茂木氏らの野党分断工作は功を奏したといっていい。
今後の焦点は立憲が「骨抜き法案」に妥協して賛成するかどうかである。
立憲の岡田克也幹事長は政府案について「40点が50点ぐらいになった。合格の60点まであと10点」と記者団に述べた。マスコミ報道の多くはこの岡田発言について「修正内容が不十分との認識を示した」と報じている。これからの修正協議に立憲が強気に挑むという見立てであろう。
私の受け止めは違う。たしかに岡田氏は政府案を手放しで評価せず、注文もつけている。しかし一歩も引かないという姿勢は感じられない。むしろ岸田首相に「あと10点」を譲歩してもらって、なんとかして賛成したいという思いがにじんでいると思った。
被害者や弁護団が納得するレベルに達しなくても、自公与党と協議してきた維新と国民民主が賛成し、立憲だけが反対する構図はなんとかして避けたいーー岡田氏にはそんな政局判断があるのだろう。自公与党の野党分断工作によって、今国会で実現した維新との共闘が早くも崩れることを最も恐れているのである。
さらに国民民主党の連立与党入りが検討されているという報道にも焦りを募らせたはずだ。国民民主に続いて維新も与党入りすれば、立憲は置いてけぼりになる。維新と組んだ段階で共産党やれいわ新選組は不信感を強めており、いまさら共産やれいわとの野党共闘に戻るのも難しい。できれば立憲が賛成できるように岸田首相に政府案修正で譲歩してもらい、維新や国民民主と歩調をあわせて賛成したいのだ。
だが、自民党はそんなに甘くはない。立憲が気兼ねなく賛成できるような政府案の修正には応じないだろう。被害者や弁護団が評価できない内容にあえてとどめることで、「ここまで乗れるなら乗ってこい。いやなら立憲だけ反対してもいいんだよ」といたぶるはずだ。
さて、立憲は困った。
今国会の会期末10日まで。衆院では7日に参考人質疑、早ければ8日に採決が行われる見通しだ。参院に送付して成立させるには国会会期の小幅延長が必要だろう。
立憲は賛成するのか、反対するのか。維新や国民民主に同調して賛成すれば国会は自公立維国5党の大政翼賛体制の気配が強まってくる。維新や国民民主と袂をわかって反対すれば、立憲と維新の国会共闘は早くも崩壊して立憲は戦略の大幅見直しを迫られる。
立憲にとってどちらも厳しい道である。しかしそれ以上に立憲の選択は、国会が与党一色の大政翼賛体制へ向かうのか、与党と対峙する野党勢力がギリギリのところで一定数を保つのかという、日本の政治の大きな分岐点となる。