立憲民主党の泉健太代表はNHK番組で、1月23日召集の通常国会で日本維新の会との連携をさらに強化する考えを示した。
泉代表は維新のキャッチフレーズである「身を切る改革」にあえて言及し、「何でもかんでも増税を先に言うのではなく、歳出改革、国会議員の身を切る改革にまず優先して取り組むという意味で、大きく連携できる」「今国会の課題は歳出改革だ。予備費も基金も膨らんだ。それだけでも相当な無駄を削減できるし、国会議員の身分も、もっとスリム化を考えなければいけない」と強調。維新とともに「各役所の無駄遣いを両党で協力して見つけ出していく作業をやっていきたい」とも語った(こちら参照)。
立憲は昨秋の臨時国会で共産、社民、れいわとの野党4党共闘から、「自公の補完勢力」と批判してきた維新との共闘へ転換する姿勢を鮮明にしていたが、今年はその路線をさらに進めることを宣言したものである。
維新は立憲に先駆けて自公与党へ接近し、憲法の専守防衛を逸脱する敵基地攻撃能力の保有など安全保障政策では自民よりも過激な主張を展開している。維新はその路線を曲げる気配がなく、泉代表はそれを承知で維新と連携強化を打ち出したのだから、もはや立憲も維新の後を追って「自公の補完勢力」になったとの批判は免れないだろう。
これに対して立憲党内からは泉代表を批判する声はほとんど聞こえてこない。立憲を飛び出して野党再編を仕掛ける覚悟を持った立憲議員は皆無に近いのだろう。情けない限りだ。
昨年の臨時国会でも、統一教会の被害者救済法案に維新が賛成の方針を決めると、立憲が後を追うように賛成に転じた。今年の通常国会も「自公に追従する維新の背中を追いかける立憲」という展開が予想される。与党入りの姿勢を強める国民民主党をあわせて、国会の議席の9割以上を占める与野党5党が総与党化する「大政翼賛体制」が現実のものになりつつある。「確かな野党」として自公政権を批判するのは共産党とれいわ新選組しかなく、私たちの国の民主主義は極めて危うい状況を迎えている。
泉代表の姿勢にはさらに見逃せない点がある。それは自公政権の「防衛力強化」「防衛費増額」に理解を示しつつ、「防衛増税」には反対し、「歳出改革(=社会保障や教育など他の予算の削減)」を優先する姿勢を鮮明にしたことだ。
米国から敵基地攻撃能力を持つ巡航ミサイル・トマホークなどを大量購入する巨額の財源を増税なしに確保するのは、相当大胆な予算削減が必要になる。自民党最大派閥の清和会は「国債発行」を主張しているが、立憲幹部(野田佳彦最高顧問、岡田克也幹事長、安住淳国対委員長)は財務省と親密でともに消費税増税を進めてきただけに、財務省が嫌がる「国債発行」には消極的だ。
ここで維新の一丁目一番地である「国会議員の身を切る改革」に言及しているが、世論向けの政治的パフォーマンスの側面が強く、それで確保できる財源は微々たるものだ。「防衛費増額」を認め、「国債発行」を否定すると、残るは「歳出改革=社会保障や教育など他の予算の大幅削減」しかない。つまり「米国からミサイルを大量購入する費用を確保するために、国民生活を支える予算を大幅に削減する」というのが、立憲・維新の共闘の行き着く先となる。かつて民主党政権が掲げた「国民の生活が第一」とキャッチフレーズは死文化したといっていい。
民主党→民政党→立憲民主党という野党第一党の政治姿勢を振り返ると、以下のようになる。
①小泉純一郎政権が掲げた構造改革路線に「改革競争」で挑む →惨敗
②構造改革の歪みが顕在化した第一次安倍・福田・麻生政権に対して「国民の生活が第一」で対抗 →政権交代
③民主党政権前半は子ども手当など「国民の生活が第一」と、事業仕分けなど「歳出削減」が混在 →混迷
④民主党政権後半は財務省と一体化し消費税増税を推進、「国民の生活が第一」は色あせる →惨敗、野党に陥落
⑤第二次安倍政権を安保政策や権力私物化疑惑で追及し激突 →国政選挙6連敗で分裂・弱体化
⑥維新と「歳出削減」で連携強化、安保政策などで岸田政権に接近 →与党一色に染まる大政翼賛体制へ
その時々の政権に対して野党第一党のスタンスが揺れ動くのは仕方がない面がある。しかし過去の歩みを振り返っていえるのは、「国民の生活が第一」を掲げて自公与党と激突した時だけ成功したということだ。
岸田政権が掲げる「防衛費倍増」は対米追従路線であり、その財源を確保するために「歳出改革(=社会保障や教育など他の予算の削減)」を掲げることは、「国民の生活が第一」に反する。この矛盾を覆い隠すために、維新のキャッチフレーズに同調して「国会議員の身を切る改革」という政治的パフォーマンスを掲げているのが今の泉・立憲民主党である。
これは自公からすれば与しやすい。国会議員のわずかばかりの歳費・経費カットや定数削減などを掲げて立憲と維新のメンツを立てれば、防衛費増額などへの協力を得られるからだ。昨秋の臨時国会の被害者救済法案で「配慮」を「十分に配慮」に微修正しただけで立憲を賛成に引きずり込んだのと同じ構図である。
その結果、国会の予算審議で野党第一党の立憲と野党第二党の維新の追及が弱まれば、これほど楽なことはない。議席が少なく質問時間も短い共産党とれいわ新選組だけでは、岸田政権のスキャンダルや失政への追及も不十分にとどまるだろう。
維新と連携強化して自公与党に接近する「ゆ党」化を立憲議員たちは許すのだろうか。このままでは敵基地攻撃能力の保有に続いて原発政策でも維新に引きずられるかたちで自公に接近していく可能性が極めて高い。
次の衆院選では政権交代は難しいと早々にあきらめて維新とともに「自公の補完勢力」に成り下がった泉・立憲民主党に安住するようなら、立憲議員たちに存在意義はない。次の選挙ではごっそり落選してもらって、野党勢力を総入れ替えするほうが政治改革の近道である。
明石市の泉房穂市長や杉並区の岸本聡子区長ら地方自治体からは新しい政治改革の動きが出ている。それらの動きが全国に波及するように応援していくほうが、政治のダイナミックな変化につながる可能性ははるかに高いだろう。