国会の勢力図が激変している。自民×維新の「与党」、立憲×公明の「野党」、そして国民×参政の「ゆ党」。永田町はついに3大勢力の“三国志”となり、あらゆる政策テーマが三つ巴の乱戦へと転じた。
その火ぶたを切ったのが、衆院議員を小選挙区25、比例20削減し、1年後に自動発動させるという、前代未聞の「時限爆弾法案」である。
◆ 与党・自民×維新は「多数派ギリギリ」の綱渡り
自民と維新は連立合意に基づき、この定数削減法案を臨時国会に共同提出した。問題は、その手法だ。
削減案が1年後に“自動発射”される設計では、与野党が対等に協議できるはずがない。立憲が猛反発するのも当然だ。
しかも、自民と維新は衆参ともに単独で過半数を持たない。衆院では、維新を離党した3人を自民が会派に引き込み、ギリギリの233議席を確保したが、参院では依然6議席不足。野党が結束して反対すれば、法案成立は不可能となる。
会期末は12月17日。衆院の政治改革特別委員会の委員長ポストは立憲にあるうえ、同委員会はすでに企業・団体献金見直し法案の審議中。立憲はこれを先に採決する方針で、定数削減法案の審議入りは拒否している。ここにきて、時間切れは決定的になった。
維新の一部からは「会期延長」「年内成立できなければ連立離脱」という強硬論も出るが、年末は予算編成が控え、現実性は乏しい。会期末に解散という選択肢もあるが、年末年始の選挙は不可能。やるなら年明けの通常国会冒頭だろう。
つまり、定数削減法案はデッドロックに突入した。問題は、これを利用して誰が主導権を握るかである。
◆ 立憲×公明が急接近した理由
ここで存在感を高めているのが、立憲と公明の野党同盟だ。
公明は自民との連立を離脱し、選挙協力も白紙に戻った。自民は斉藤鉄夫代表の広島3区を含めて公明現職のいる選挙区に対抗馬を立てる構えで、公明の小選挙区当選は絶望的となっている。比例削減まで進めば、議席減は避けられない。
本来、公明は連立離脱を望んでいなかった。しかし、自民党を完全掌握した麻生副総裁が、公明寄りの菅・森山ラインを排除し、公明を追い出す構図が出来上がった。自公協力が25年続く自治体レベルでは、いまだに“旧関係”が残るものの、次の総選挙で自民に突き放されれば、公明は壊滅しかねない。そこで公明は、立憲との共闘へ一気に舵を切った。
公明の西田幹事長は、「強行採決はあり得ない」と明言。立憲候補の推薦と引き換えに、比例での支持を求める“バーター型選挙協力”を模索している。立憲にとっても、公明との連携はまさに救いの綱だ。国民や参政が躍進し、野党第一党の地位は揺らぎ、党の分裂危機さえ見えている。ここは公明と手を組んで総選挙を乗り切りたい――その本音が透けて見える。
◆ 第三極・国民×参政は中選挙区復活で反撃へ
一方、参院選で躍進した国民民主と参政党は、立憲・公明との共闘に乗る理由がない。支持層は減税・積極財政に期待する若者・現役世代中心で、財政規律重視で高齢世代に支えられている立憲・公明とは政策も温度感もまったく違う。
強いて言えば、国民の玉木代表は高市首相への支持を明言し、参政の神谷代表もスパイ防止法で自民との連携を示唆する。政策軸ではむしろ自民・維新に近い。
ただし問題は、比例定数の削減である。国民も参政も小選挙区ではまだ弱く、議席の生命線は比例にある。そこで国民が打ち出したのが、中選挙区制の復活という“第三の道”だ。
小選挙区を廃止し、定数3〜5の中選挙区にすることで、立憲・自民の二大政党時代を終わらせ、多党が競う新しい選挙制度をつくる。これに参政が乗る可能性は極めて高い。神谷代表は、維新に対し「民意を反映する制度なら定数削減に賛成」と伝えており、中選挙区がその鍵となる。
国民と参政の最大の敵は、定数削減そのものより、むしろ中選挙区復活に最も強く反対する立憲民主党かもしれない。
◆ 自民×維新は「国民をどう取り込むか」が本音
自民と維新は、立憲・公明と国民・参政の野党勢力を“分断”することで法案成立を狙う。しかし、自民にとって維新はあくまで“仮のパートナー”にすぎない。
衆院は自民+維新+維新離党組3人で過半数だが、自民+国民では足りない。一方、参院は国民が加わればギリギリ過半数に届く。参院の議席構成は2028年まで変わらないため、自民が本当に連立したいのは国民民主のほうなのだ。
維新離党組3人を自民が平然と会派入りさせたのも、維新軽視の象徴である。つまり、自民×維新は“かりそめの連立”に過ぎない。
◆ 三国志時代の永田町をどう読むか
二大政党時代は完全に終わった。これからは、与野党が政策ごとにくっついたり離れたりする多党制のリアルな政治が進む。
自民、維新、立憲、公明、国民、参政――六つの勢力が入り乱れる中、定数削減法案はその縮図だ。法案の行方は、来年の政界マップを左右する最大の材料となる。