2025年夏の参議院選挙で、静かに、しかし確実に日本の政界地図を塗り替えつつある政党がある。参政党だ。
「日本人ファースト」「反グローバリズム」を掲げ、積極財政や食の安全、専業主婦支援などを前面に押し出すこの新興勢力は、これまでの政党間対立の構図を根底から揺るがしている。
特に注目すべきは、全国32の1人区における「自民惨敗」の影に、この参政党の台頭が色濃く影を落としているという事実だ。
多くの報道では、「立憲民主党が自民党を猛追」という構図が描かれている。しかし、それは表層的な見立てにすぎない。
実態は、参政党が自民の支持層を根こそぎ奪い取り、その結果として立憲が漁夫の利を得ている――それが1人区の真相なのだ。
比例2位に浮上した衝撃 “追い風”ではなく“突風”
共同通信などの世論調査では、比例投票先として参政党が立憲民主党、国民民主党を上回り、自民党に次ぐ2位に急浮上した。
しかも、東京ではトップ当選の可能性も取り沙汰され、神奈川・大阪・埼玉・愛知といった都市部の複数区だけでなく、千葉・兵庫・福岡・北海道の3人区でも当選圏内に食い込む勢いを見せている。
こうした躍進を一時的なブームと見るのは誤りだ。地方支部を拠点にした草の根活動、SNSを駆使した支持拡大、そして150人を超える地方議員のネットワークが、着実な地盤として形成されてきた。
外交ではトランプ支持を鮮明に打ち出し、経済では積極財政を訴え、保守層と無党派層の両方を吸収している。
今や参政党は、既存の小政党――公明・共産・維新・れいわ――を一気に追い越し、「第三極」のポジションに最も近い位置を占め始めている。
自民と立憲の“隙間”に食い込む三つ巴構図
参政党のもう一つの特徴は、全国すべての選挙区に候補者を擁立していることだ。これは自民党と参政党だけの戦略であり、立憲・共産・国民・維新・れいわなどの主要政党が候補者数を絞る中、突出している。
特に1人区では、「自民 vs 立憲」に参政党が割って入る「三つ巴」の構図が鮮明になってきた。ここで参政党が吸収しているのは、主に自民支持層だ。
その結果、保守票が分散し、自民が競り負け、立憲が勝利するという現象が各地で生じている。だが、これは立憲への支持が広がっているのではない。あくまで参政党による保守票の切り崩しが原因だ。
つまり、1人区での「自民惨敗」は、立憲の“勝利”ではなく、参政党の“陰の勝利”なのだ。
共産とれいわの後退 参政党の台頭と入れ替わり
1人区の票割れを引き起こしてきたのは、かつては共産党だった。すべての1人区に候補者を立てることで政権批判票を分散させ、自民党の勝利を許してきた。
その反省から共産党は今回、多くの1人区で候補者擁立を見送ったが、その代わりに急浮上してきたのが参政党である。
また、れいわ新選組は資金難などから1人区での擁立を抑制し、地方組織の弱さが露呈している。この2党の“後退”が、参政党による「全選挙区擁立」という戦略の強みを際立たせている。
結局のところ、党勢拡大の基本は、候補者の数、地方議員の数、地方組織の数――その“3つの数”に尽きる。
既存政党の“共闘”が後押しする大連立の現実味
参政党の躍進は、与党・野党問わず既存政党に強烈な危機感を抱かせている。保守層を切り崩された自民、第三極の覇権を奪われる国民民主、イデオロギー上の対立軸を曖昧にされる立憲――それぞれにとって、参政党の伸長は脅威である。
この危機感が導き出す“処方箋”として、自民と立憲による「大連立構想」が現実味を帯びてきた。従来は消費税増税の必要性が大義名分だったが、今後は参政党の台頭を「極右的」とみなして封じ込めることが、連立の名目になり得る。
ヨーロッパ諸国では、移民・EUに反対する新興勢力への警戒感から、伝統的政党が“共闘”する動きが強まっている。日本でも同様の“政界再編”が進む可能性は高い。
自民党は「右旋回」か「大連立」か 分岐点に立つ永田町
こうして見てくると、いま日本政治は大きな岐路に立たされている。
自民党は、立憲と手を組んで参政党を押さえ込む「大連立」路線に舵を切るのか。それとも、参政党の主張を取り込み、右旋回して共闘に向かうのか。
いずれの選択肢も、参政党の行方を大きく左右する。取り込まれれば勢いを失うが、対抗軸として据え置かれれば、さらに勢いを増していく。どちらにしても、もはや参政党を無視して日本政治を語ることはできない段階に来ている。
この夏の参院選は、単なる議席の争いではなく、「政界の勢力地図」そのものを塗り替える選挙になるかもしれない。