臨時国会が開幕し、岸田文雄首相の所信表明演説に続いて各党の代表質問が始まった。最も注目を集めたのは、与党としては異例の首相批判を展開した自民党参院幹事長の世耕弘成氏であろう。
岸田首相が経済対策の目玉として打ち出した所得税減税について、世耕氏は「税収増を還元するという言葉がわかりにくかった」「物価高に対応して総理が何をやろろうとしているのか伝わらなかった」「総理の決断と言葉は弱さを感じる」などと厳しく批判したのである。
世耕氏は最大派閥・安倍派で後継会長の座を争う5人衆のひとり。大胆な財政出動や金融緩和を進めることを持論としており、財政収支均衡を重視する財務省主導の緊縮財政にそもそも批判的な立場だ。
岸田首相が財務省の意向に従って「過去最高にのぼった昨年度の税収を還元する」という範囲で財政出動の規模に制限をかけたこと自体に反発した発言といえるだろう。安倍派には世耕氏と同様、財務省主導の緊縮財政に反発して大胆な財政政策を訴える積極財政派が相当数いる。今回の所得税減税にも批判的な意見が強く、その声を代弁した格好だ。
一方、世耕氏は5人衆のライバルである萩生田光一政調会長が森喜朗元首相に寵愛され、森氏に配慮する岸田首相にも重用されていることも面白くないようだ。9月の内閣改造・党役員人事で岸田首相が萩生田氏の官房長官起用を模索したとの報道も気に障ったに違いない。
萩生田氏が岸田首相や菅義偉前首相に接近していることに対抗し、世耕氏は麻生太郎副総裁に近づいている。今回の代表質問で異例の首相批判に踏み切った背景には、自民党内の政局的駆け引きの側面もありそうだ。
とはいえ、自民党執行部の一員が公然と首相批判を展開するインパクトはやはり大きい。今後、自民党内で首相に対する批判や苦言を控える風潮がなくなり、あちこちから噴出するきっかけになる可能性もある。
ただ、私が世耕氏の発言で違和感があったのは「総理の決断と言葉は弱さを感じる」という部分だ。
むしろ今の岸田首相が国民から見放され、内閣支持率が続落している最大の原因は、就任当初の「聞く力」「丁寧な説明」という言葉を忘れ、防衛力の抜本的強化などを強硬に推し進める「マッチョ型」に変節してしまったことにあるのではないだろうか。
今回の所得税減税が不評を買っているのも、減税の具体的内容が物足りないことに加え、打ち出し方にも大きな原因がある。世論や党内の声に耳を傾けることなく、「増税メガネ」というあだ名に腹を立て、増税イメージを払拭するために独断専行型で所得税減税を決め、首相主導を演出するかたちで公表したことに、傲慢に強権をふるう政治家の怖さを国民各層が感じ始めたからではないか。
つまり、岸田首相が嫌われている最大の理由は、その「弱さ」ではなく、「弱さを覆い隠すため、強くみせようとするあまり、強権的な政治を進めている」だと思う。
むしろ世耕氏は「原点に立ち返って、『聞く力』や『丁寧な説明』を大切にしたらどうか」と苦言を呈するべきであった。