今年は戦後80年。石破茂首相は当初、終戦記念日に戦後80年談話を発表することを目指したが、安倍政権の70年談話を上書きされることを警戒して旧安倍派が猛反発し、石破首相は「石破おろし」が激化することを恐れて終戦記念日の発表は断念したようだ。
とはいえ、臨時の自民党総裁選が9月に行われる見通しとなり、石破首相の退陣が不可避な情勢になったことを受け、石破首相は戦後80年を受けた何かしらかのメッセージを退任前に出すことをあきらめていない。
衆参選挙で惨敗し、少数与党国会に翻弄され、実績に乏しい石破政権の最後の成果としたいのだろう。旧安倍派に一矢報いたい思いが透けて見える。
戦後80年は政局の渦に巻き込まれてしまった感がある。先の大戦をしずかに省みる文化は、いまの永田町には消え失せてしまった。石破首相も旧安倍派も政争の道具としか捉えていないようで、残念でならない。
旧日本軍に戦争に駆り出された経験のある国会議員はいなくなった。
田中角栄や野中広務らかつての大物議員は戦争経験がある国会議員が健在なうちは戦争に突入する過ちは繰り返さないが、戦争を知らない世代が政治指導者となった時はどうなるかわからないとの不安を口にしていた。まさにその時代に突入したのである。
戦時中に生まれた国会議員は衆参両院で6人。最高齢は自民党の麻生太郎元首相(84)。太平洋戦争が始まる前年、1940年生まれだ。衆院は立憲民主党の小沢一郎氏(83)、額賀福志郎議長(81)、そして終戦の年(1945年)の4月に生まれた自民党の森山裕幹事長(80)と続く。参院は自民党の山崎正昭元議長(83)と野村哲郎元農相(81)の2人。いずれも徴兵されて最前線で戦った経験はない。
この夏の参院選で当選した議員の最高齢は、自民党の鈴木宗男氏(77)で、戦後の1948年生まれ。終戦前に生まれた当選者はいなかった。
まさに戦争を知る国会議員は、いなくなったのである。そのなかで、戦後談話をめぐる自民党内の闘争をみていると、危機感は募るばかりだ。
野党に目を転じると、現役世代の強い支持を受けて参院選で躍進した国民民主党や参政党は、憲法改正に前向きである。日本維新の会も自民党より右寄りな安保政策を掲げている。立憲党内は左右が混在しているものの、少数与党国会で衆院の憲法審査会長に就任した枝野幸男氏をはじめ、左派とみられるとことに反発して改憲論議に前向きな議員もは少なくない。
野党全体としては、往年の自民党よりはるかに右傾化しているは間違いなかろう。
かつて社会党は、自民党が改憲を発議できる衆参3分の2の議席を獲得することを防ぎ、護憲政党をアピールしていた。いまや、自民党は3分の2の議席を獲得する力はないものの、野党勢力のほうがむしろ改憲論議に前向きになっている。
明治維新から70年を過ぎ、日本は対米戦争に突入した。日本政界に幕末のリアルな動乱を知る世代が健在ならば、開戦に踏み切ることはなかっただろうと言われている。敗戦から80年。戦争を知る世代が政界から消え、時代は繰り返すのか。日本の民主主義は正念場を迎えている。
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