政治を斬る!

参院選、地殻変動の始まり──自公惨敗と参政党の大躍進が突きつけた日本政治の転換点

参議院選挙は、日本政治にかつてない衝撃をもたらした。出口調査によると、自公与党は過半数を大きく下回る見込み。代わって脚光を浴びたのは、反グローバリズムを掲げる参政党だった。結党からわずか5年、国会議員5人の新興勢力が、立憲民主党や国民民主党に迫る劇的な躍進を遂げようとしている。

選挙区では東京都でのトップ当選をはじめ、神奈川・大阪・愛知・埼玉の4人区、千葉・兵庫・北海道・福岡の3人区といった激戦区で当選圏内に食い込み、比例と合わせて10議席超の獲得が現実味を帯びてきた。これはもはや“泡沫政党”の躍進ではない。政界地図の根本的変容、すなわち「地殻変動」である。

今回の選挙は、自民vs立憲という伝統的な与野党対決の構図ではなく、「既存のすべての政党 vs 参政党」という、想定外の対立軸が浮かび上がった。与党も野党も、さらには大手メディアもこぞって参政党を「極右」「排外主義」と批判した。だが、その批判はむしろ火に油を注いだように映る。有権者の一部は、既存政治・メディアの語る“正義”に耳を貸さず、むしろそこに怒りと反発を強めた。

このような民意の変化は、決して唐突に生まれたものではない。2023年の東京都知事選における石丸現象、兵庫県知事選の斎藤元彦知事の大逆転など、地方政治で既に兆候はあった。既成政党への信頼は根底から揺らぎ、民衆の間では“自分たちの代表”を求める機運が高まっていた。

参政党の支持層を支えるのは主に2つの層である。ひとつは、移民増加や食の安全性に不安を抱える主婦層。もうひとつは、自民党や国民民主党に失望した保守系有権者だ。彼らは月1000円の党費を払い、草の根で党勢を広げてきた。こうした底辺からの運動が、今回の選挙で一気に可視化された。

参政党が掲げるのは「日本人ファースト」というスローガン。だがその真意は、単なる国粋主義ではなく、グローバル資本による生活の侵食への抗議とみたほうがいい。自由貿易と多国籍企業の横行が生んだ格差と不安、そして移民政策による社会の変容。それらに抗う「反グローバリズム」の思想こそが、参政党の存在意義の核だ。

欧米諸国でも、こうした波はすでに政治を覆い始めている。イギリスのブレグジット、フランスのル・ペン、ドイツのAfD、アメリカのトランプ。いずれも「上からのグローバリズム」に対し、「下からの国民主義」が抵抗する構図である。日本もついにその潮流に呑み込まれつつある。

政局の行方を占えば、自民党内では石破茂首相の退陣は時間の問題と見られる。

石破総理は投開票日夜に続投へ意欲も示した。しかし、選挙敗北の責任は重く、自民党内の反発は必至だ。参院選で惨敗した石破内閣に、野党が協力するのも難しい。石破内閣のまま、秋の臨時国会を召集しても、衆参両院で過半数を割るなか、法律も予算も一切通らず、立ち往生するのは目に見えている。

石破退陣後の自民党総裁選の本命は、高市早苗氏だ。旧安倍派や麻生派など党内保守層の支持を集めれば、自公政権を維持したまま政権の「右旋回」が起こる可能性が高い。

自民党が高市氏を担ぎ保守層を引き戻す戦略は、参政党との正面衝突を避ける現実的対応かもしれない。しかし、グローバリズム推進の旗を掲げ続けてきた自民党にとって、これは看板の付け替えに過ぎないという批判も根強い。参政党にとって、自民との連立は存在意義の自滅にもなりかねず、神谷宗幣代表がその道を選ぶとは考えにくい。

今後、現実的な連立候補となるのは国民民主党である。積極財政や減税を掲げる国民との接点は多く、高市政権が誕生すれば、自公+国民による「自公国」連立政権が現実味を帯びるだろう。

だが、重要なのは「誰が与党になるか」ではない。政局の本質は、「与野党の左右対決」から「グローバルvs反グローバルの上下対決」へと、構図そのものが変容したという点にある。

大企業・メディア・知識層など、グローバリズムを推進する“上”と、変化に取り残され不満を募らせる“大衆”との階級闘争が、ついに日本の国政の表舞台に現れた。その端緒が、今回の参院選である。

日本の政治は新たな段階へと入った。今後の展開は予断を許さないが、ひとつ確かなのは、これまでのような「表面的な対立軸」に安住していては、もはや民意を捉えることができないということである。