株価が大暴落する中、日本政治の中心に躍り出たのが「食料品の消費税減税」論争だ。これまで慎重な姿勢を貫いてきた石破茂首相に対し、与野党から減税を求める声が高まり、政局の様相を帯び始めている。
参院選を控えた今、「食料品の消費税率」は単なる政策論争を超え、石破政権の存続をも左右する争点となっている。
自民党参院勢、石破総理に反旗
転機となったのは、自民党の松山政司参院幹事長の発言だった。「物価高対策、特に食料品は重要。国民に寄り添った政策を」と、石破首相の減税否定発言の直後に、消費税減税の必要性を公然と訴えたのだ。
松山氏は参院選の改選組であり、株価下落と内閣支持率低迷の中、現場の危機感を代弁するかたちで声を上げたと見られる。参院自民党は、すでに旧安倍派の西田昌司議員が石破退陣を求めるなど、明確に反石破色を強めており、「石破おろし」が現実味を帯びつつある。
参院では高額療養費の患者負担引き上げに異論が噴出し、予算修正にまで発展。年金制度改革法案の今国会提出を見送るよう求める声も強まっている。石破首相がこれら参院の要求をのむか否かが、政権の命運を分けることになりそうだ。
発言をたびたび覆してきた石破首相だけに、自民党内の「石破おろし」を封じ込めるために減税に転じる可能性も否定できない。公明党も機敏に動き、岡本三成政調会長は「様々な選択肢を排除せず議論すべき」と前向きな姿勢を表明。いずれ石破首相が方針転換しても、自らの手柄に見せる布石を打っている。
野党も主導権争い、立憲に分裂の兆し
野党でも減税をめぐる攻防が激化している。
勢いづく国民民主党の玉木雄一郎代表は、ガソリン税や所得税の減税に加え、「消費税減税にも躊躇せず取り組む」と表明した。
国民民主党は昨年の総選挙で、所得税減税やガソリン税減税とともに、消費税減税を公約に掲げていた。しかし総選挙後は所得税減税とガソリン税減税に照準を絞って石破政権と協議を開始し、消費税減税の主張は封印していた。
これに対し、ネットでは減税派から不満もくすぶっていた。れいわ新選組の「消費税廃止」路線に支持を奪われる危機感もあった。
石破政権との協議が決裂し、トランプ関税による経済打撃が現実味を増す中、国民民主党にとっては消費税減税の主張を再び掲げる好機が巡ってきたといえる。
一方で、立憲民主党は混迷を深めている。野田佳彦代表は、自身が総理時代に消費税増税を主導した「自公民3党合意」の立役者であり、今なお筋金入りの財務省寄り緊縮財政論者だ。「減税するなら代替財源を示せ」と譲らない姿勢を貫いている。
しかし党内の不満は大きく、江田憲司氏や馬淵澄夫氏ら70名が「食料品の消費税ゼロ」を参院選の公約に掲げるよう要求。減税を明示しなければ、支持率を伸ばす国民民主党に批判票を奪われ、立憲が野党第一党の座を失う危険すらある。
野田氏が最終的に一定の減税を容認する可能性もあるが、条件付きの「期間限定減税」など、慎重姿勢は変わらないだろう。財務省と密接な政治的な立場と過去の経歴が、政策転換を大きく縛っているのだ。
「影の総理」森山幹事長と財務省の壁
この減税論争に、強固に立ちはだかるのが自民党の森山裕幹事長である。「代替財源を示さぬ減税などあり得ない」と主張し、減税阻止の最後の砦となっている。
森山氏の主張は、財務省の緊縮路線そのものであり、30年にわたる日本経済の低迷を生んだ財政健全化至上主義を体現している。
森山氏は長く国会対策を担ってきた重鎮であり、財務省とは予算編成を通じて「一心同体」の関係だ。財務省が信頼する政治家として、石破首相よりもはるかに強固なつながりをもっている。
実際、石破首相自身は当初、「一概に否定しない」と消費税減税に柔軟な姿勢を見せていた。ところがその直後、「税率引き下げは適当ではない」と発言を修正。財務省が水面下で動き、軌道修正を迫ったのは明らかだ。
背景には、財務省出身の首相秘書官・中島朗洋氏の存在がある。中島氏は国民民主党の玉木雄一郎代表や自民党の木原誠二選対委員長と同期のエリートであり、筋金入りの緊縮財政派だ。「理屈」好きの石破首相は、中島氏の「理屈」にあっけなく籠絡されたとみていい。
減税の行方を左右するのは「政局」
このように、食料品の消費税減税をめぐる議論は、単なる政策論争ではない。そこには、石破政権の存続、与党内の主導権争い、野党の再編といった「政局」が色濃く絡んでいる。
石破首相が財務省や森山幹事長の圧力に屈するのか、それとも参院選を控える参院自民党に押し切られて消費税減税に踏み切るのか。参院選に向けた攻防の中で、その方向性は決まっていくだろう。
そして最終的に決めるのは、私たち有権者の声だ。参院選でどのような民意が示されるかが、減税の行方を大きく左右することになる。
食卓に直結する「食料品の消費税」。その軽減が実現するのか否かは、政治の現場の力学と、国民の選択にかかっている。