能登半島にある志賀原発が元旦の地震の影響で当初発表以上にダメージを受けていたことがわかってきた。政府や電力会社の原発をめぐる情報発信への疑念は膨らむばかりだ。
最初に驚いたのは、志賀原発が外部から電源を受ける電気系統の一部が使えなくなったことだ。最新情報では3系統5回線うち2回線が使えなくなったらしい。 正常に機能している回線で必要な電源は確保されているということだが、外部電源を失って大惨事を招いた福島第一原発の事故を彷彿させる極めて危険な状態に陥っている。
林芳正官房長官は地震発生直後、「原発に異常はない」としていた。ところが原子力規制委はその後、電気系統の一部が使用不能になったと発表。原発の状況がよくわからないうちに、取り急ぎ「異常なし」と発表してしまう隠蔽体質がいきなり露呈したのである。
この点を指摘した私のX(旧ツイッター)には74万インプレッションの反響があった。
さらに深刻な事態もわかってきた。
地震の津波で志賀原発の水位が3メートル上昇し、海側に設置している高さ4メートルの防潮壁は数センチ傾いていた。
北陸電力は2日午前の記者会見で、水位計を監視していたものの、有意な変動は確認されなかったと説明していた。 ところが、敷地内の状況を再確認したところ、水位が3メートル上昇し、防潮壁が傾いていたことがわかったという。
政府や電力会社の原発をめぐる情報発信はいつもこうだ。まずは「異常なし」と発表し、後から「実はこうだった」と訂正する。 どこまでも信用ならない。
マスコミも政府や電力会社が「異常なし」と発表するのを垂れ流すばかりで、説明が二転三転したり、重要な問題を伏せていたりする隠蔽体質への追及が甘い。当局と一体となって「大騒ぎにならないように世論を鎮静化させることに協力している」というありさまだ。
福島第一原発事故では、このような政府・電力会社・マスコミの姿勢から事態の深刻さが伝わらず、かえってさまざまな臆測を呼び、パニックを招いた。その反省がまったく生かされていないのは、福島第一原発の広報の失敗を率直に認め、再検証していないからだろう。マスコミの報道のあり方も同様だ。
志賀原発は福島第一原発の事故後、ずっと停止してきた。政府も電力会社も経団連も、志賀原発の再稼働に躍起だった。 11月末には経団連の十倉会長が志賀原発を視察し、再稼働の必要性を強く訴えていた。
もし再稼働していたら、さらに事態は緊迫していただろう。
志賀原発は電気系統の一部が壊れて使えないままだ。原因はよくわからない。北陸電力がすべてを包み隠さずに公表しているかどうかも怪しい。
今回の地震で、志賀原発の再稼働はしばらくは困難になっただろう。志賀原発付近の震度は5強だった。最大震度7が襲っていたらと思うと、恐ろしい。
震度7の震源地付近はかつて「珠洲原発」の建設計画地だった。住民の反対運動で建設計画は撤回されたが、もし珠洲原発が実現していたらと想像すると背筋が凍る思いだ。
新潟県の柏崎刈羽原発でも地震の揺れで燃料プールの水があふれたことが確認された。こちらも再稼働への動きが強まっていたが、慎重論が高まる可能性が大きい。
隠蔽体質が蔓延る地震大国に、原発が立ち並んでいること自体が、安全保障上の最大の脅威である。世論の不安が鎮まるのを待つだけでなく、脱原発へ歩み始めなければ、地震が起きるたびに社会全体がびくびくする事態が繰り返されるだけだ。
世界史に刻まれた福島第一原発の事故を体験しながら、それからわずか十数年後に再び原発事故を引き起こすことがあれば、国際社会からも、そして未来の日本人からも、何と愚かな国かと見放されるに違いない。