石破茂総理がついに退陣を表明した。参院選惨敗後も権力にしがみつき、自民党内の石破おろしに対抗して衆院解散まで検討していたが、党内で総裁選前倒しへの賛成が過半数を大きく上回る情勢となり、最後は後継を狙う小泉進次郎農水相(44)に説得され、白旗を掲げた。
これにより自民党は党分裂の危機を回避し、ポスト石破をめぐる総裁選に突入する。
進次郎は「石破退陣の立役者」として一躍、次期総裁選の本命に躍り出た。麻生太郎、菅義偉、岸田文雄、森山裕ら党内の重鎮たちは「石破総理の自発的退陣」で連携し、ポスト石破についても「挙党一致で進次郎」という合言葉のもとに結束を固めつつある。
進次郎がもぎ取った「大金星」
石破総理は総裁選前倒しをめぐる賛否確認の前日、退陣を決断した。党内の過半数が前倒しに賛成する見通しとなり、勝ち目がないことが明らかになったためだ。
追い詰められた石破は最後の抵抗として「ヤケクソ解散」をちらつかせたが、これも進次郎に強く反対され、実行できなかった。
決定的だったのは9月5日夜。菅元総理と進次郎が首相公邸を訪ね、退陣を迫った場面だ。菅が席を外した後も進次郎は2時間粘り、石破を説得。ついに「明日、記者会見だな」と言わせた。頼みの進次郎にまで見放された石破は、完全に追い込まれたのである。
政権を揺るがす「やっかい者」に引導を渡し、自民党分裂を食い止めた。進次郎にとっては、まさに大金星だった。
重鎮4人の妥協と合流
進次郎が石破に退陣を迫ることができた背景には、党内コンセンサスの形成があった。
早くから「ポスト石破は進次郎」と位置づけていたのが菅義偉と森山裕だ。菅は昨年の総裁選に進次郎を担いだ後見人である。森山は石破政権を幹事長として支え、進次郎を農水相に起用した張本人だ。
最大の焦点は麻生太郎だった。前回総裁選では石破阻止のため高市早苗を担ぎ、敗北を喫した。今度も対抗馬を立てるのか、それとも勝ち馬に乗るのか。今月85歳を迎える麻生にとって、これが最後の総裁選になる可能性は高い。非主流派のまま終わるわけにはいかないとの計算から、進次郎支持に傾いた。
これに同調したのが岸田文雄。麻生の支援を当てにしていたが、麻生が進次郎に乗った以上、抗う術はない。
こうして麻生、菅、岸田、森山という党内重鎮4人が「石破退陣」で手を握り、「進次郎擁立」で歩調を合わせる流れが完成した。森山が個別会談を重ね、意向を調整した結果である。
石破退陣の「最後の一押し」を進次郎に任せ、次期総裁の本命に押し上げる演出まで周到に準備されていたに違いない。
劣勢に立たされる高市早苗
次期総裁選で進次郎と並び取り沙汰されるのは高市早苗だ。前回総裁選では決選投票で石破に敗れたが、党内野党として減税を掲げ、ポスト石破への意欲を燃やしてきた。
しかし、旧安倍派の中堅若手が大量落選し、基盤を大きく失った。加えて、頼みの麻生が減税反対を鮮明にし、高市を突き放したことも打撃となった。SNSでの発信力も落ち込み、かつての勢いはない。
公明党の斎藤代表が「保守中道路線に沿う人物でなければ連立は組めない」と発言したのも、高市排除のメッセージだ。推薦を受ける自民党議員への影響は大きく、党内支持はさらに萎む可能性が高い。これも、公明党に人脈を持つ菅や森山の入念な裏工作の結果とみられる。
旧安倍派の萩生田光一氏らも進次郎支持へ傾きつつあり、高市は孤立感を深めている。
総裁選スケジュールと維新連立の行方
森山幹事長は、参院選惨敗を受け「解党的出直し」を掲げており、党員投票を含むフルスペック総裁選を検討している。高市にとっては党員票が唯一の巻き返し材料だが、森山があえてフルスペックを進めるのは「進次郎圧勝」の自信の表れだろう。
進次郎は前回、党員投票で苦戦した反省から、今回は争点を立てず「守りの選挙」を展開するとみられる。挙党一致を最優先し、公約はマイルドにとどめる構えだ。
もっとも、当選しても直ちに首相に就任できるとは限らない。現在の国会は少数与党状態にあるからだ。
そこで注目されるのが、日本維新の会との連立構想である。進次郎と吉村洋文代表は菅義偉を政治の師と仰ぐ「盟友関係」にある。大阪万博視察で並び立った際には互いを公然と持ち上げ、蜜月ぶりをアピールした。自公維連立政権の誕生は現実味を帯びつつある。
自民党の行方
石破政権の退陣劇は、進次郎を中心にした「挙党一致」体制を浮かび上がらせた。重鎮たちが互いの利害を調整し、最終的に一人の若手に権力を託す構図は、自民党の危機管理本能の表れともいえる。
ただし、進次郎が政権を担えば「新しい自民党」が生まれるのか、それとも重鎮に操られる「傀儡政権」となるのか。さらに維新との連立が政権の安定につながるのかも未知数だ。
「挙党一致で進次郎」という合言葉が、果たして自民党再生の切り札になるのか。それとも新たな混迷の幕開けにすぎないのか。次期総裁選は、日本政治の針路を大きく左右する局面を迎えた。