高市早苗・経済安保担当相が「捏造でなければ議員辞職する」と啖呵を切った総務省文書について、松本剛明総務相は行政文書と認めながらも「正確性を精査する」と述べている。
文書に記載された内容を事実と認めれば高市氏の更迭論や議員辞職論が沸騰し、岸田内閣が再び「閣僚辞任ドミノ」に見舞われる恐れがあるため、事実と認めるわけにいかないという政局判断を優先した結果なのだろう。
しかし担当閣僚が自らの役所の文書を「行政文書だけれども事実かどうかわからない」と明言したことは、行政文書そのものの信憑性を自ら毀損する行為だ。捏造の可能性を含めて内容が不正確な行政文書が存在することを現職閣僚が公式に表明したのだから、もはや行政文書を鵜呑みにすることはできない。行政への信頼を自ら打ち消す自殺行為である。
これまでも財務省は公文書を改竄するし、厚労省は統計を捻じ曲げるし、行政文書への信頼は大きく低下していた。官僚のモラル崩壊は目に余るところであったが、今回の問題は行政への信頼を地に落とす決定打となるのではないか。
行政文書の信憑性をいちいち疑って、精査するまで保留していたら、世の中は回らない。政治不信は募るし、官僚モラルの崩壊しているけれど、とりあえずは行政文書に記載された内容を信用して、経済活動や日常生活を進めていく。私たちの日々の暮らしはそのようにして動いている。異論があれば行政に不服申し立てしたり裁判所に提訴したりして事後的に対応するというのが、法治国家の大前提である。
安倍長期政権下でガバナンスが崩壊した日本政府がそれでもなんとか機能しているのは、この国で暮らす人々が法治国家の大前提を理解し、たとえ不満はあってもとりあえずは行政文書を「信用に足るもの」として受け入れているからだ。
その行政文書に対する信用を、なんと政府自身が打ち消してしまった。これは深刻な事態である。岸田文雄首相も松本総務相もその自覚を持たないまま「政局回避」のただ一点の理由で恐るべき愚行を犯してしまったのだ。
これから先、私たち国民は役所からいかなる行政文書を突きつけられても「正確性を精査する必要がある」と時間稼ぎすることができるだろう。それに対して役所は文句は言えないはずだ。役所がゴリ押しすれば、「なぜ総務省の行政文書だけは正確性を精査するために時間をかけることが許されるのか。松本総務相がそう明言し、岸田首相もそれを容認しているではないか」と反論すればいい。
魚は頭から腐る。すべては政治指導者たちの責任である。自分たちの手で法治国家の大前提をぶち壊したのだ。もはや法治国家の体をなしていないのである。
鮫島タイムスYouTubeの週末恒例『ダメダメトップ10』。今週は「高市氏、議員辞職せず」「新型ロケットの打ち上げ失敗」「三浦瑠麗氏の夫逮捕」「ガーシー参院議員の除名」など盛りだくさんだったが、私は松本総務相の「行政文書だけど正確性を精査」を第1位に掲げた。