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自民は「ポスト岸田」立憲は「ポスト枝野」の動きが始まる〜「二大政党政治」から「多党連立政治」時代へ

衆院選が10月31日に投開票された。自民党は自公与党で過半数を維持し政権選択の選挙に「勝利」したものの、大幅に議席を減らし、連立重視の政権運営を迫られることになりそうだ。単独過半数を目指すとして中途半端な野党共闘に終始した立憲民主党は政権交代に遠く及ばず、政権選択の選挙に「敗北」した。

日本の政治は「二大政党政治」から「多党連立政治」へ転換しつつある。今回の衆院選は「自公与党」が「野党共闘」より連携力で上回った分だけ逃げ切ったといえるだろう。野党は立憲にだけ有利な候補者一本化にとどまらず野党全体を底上げする本物の「共闘体制」を構築できるかが今後の課題だ。

以下、各党の評価をしていこう。

■自民、来夏の参院選に向けて「ポスト岸田」の動きがはじまる

自民党は単独過半数をかろうじて維持したものの、大幅に議席を減らした。岸田政権は続投するとみられるが、求心力の大幅低下は避けられない。

来年夏の参院選で「岸田政権では戦えない」との声が噴出する可能性は高く、「ポスト岸田」含みの不安定な政権運営が続く。岸田政権は菅政権につづいて「中継ぎ政権」の色彩を強めるだろう。

岸田政権のキングメーカーである安倍晋三氏と麻生太郎氏の影響力低下も必至だ。

安倍氏と麻生氏は岸田政権発足後、麻生派重鎮の甘利明幹事長とともに、二階俊博氏、菅義偉氏、河野太郎氏らを干しあげた。しかし、自公与党で過半数を何とか確保する結果にとどまったことで、今後は挙党体制をとる必要に迫られる。

二階氏や菅氏らを突き放し続ければ、野党と連携した政局を仕掛けられる恐れがあるためだ。甘利氏の幹事長交代を含め体制一新を迫られる可能性もある。岸田氏が最大の後見人である麻生氏の意向を重視するあまり、甘利幹事長の続投などに固執すれば、参院選に向けて党内抗争が激化しそうだ。

岸田政権の支持率がこれから上昇する見込みはなく、来年夏の参院選前には「岸田おろし」の動きが強まる公算が高い。それにむけて自民党内の駆け引きは激化するだろう。政局の不安定化は避けられない。

ポスト岸田として本命視されるのは河野太郎氏か。その場合、河野氏の派閥の会長である麻生氏と河野氏の後見人である菅氏の「手打ち」が実現するかどうかも注目される。安倍氏が再び高市早苗氏を担ぐのか、あるいは自ら三度目の首相登板を画策するのかも焦点だ。

■公明、維新、国民との連立枠組みを模索する動きも

自民の議席減で連立相手の公明党の発言力は大きくなる。

この9年間、自民党は圧倒的な議席を維持し連立相手の公明党を軽視することがしばしばあったが、「自公連立」の価値が再認識されそうだ。安倍政権・菅政権が「数の力」で疑惑隠蔽を進めた「権力の暴走」に歯止めがかかることが期待される。

自民党内には、大躍進した維新との連立を模索する動きも強まるだろう。とくに維新との窓口役を務めてきた菅氏は維新とのパイプをいかして主導権回復を狙うとみられる。維新の影響力が大きくなれば、自民党は再び規制緩和などの「新自由主義」の傾向が強まり、河野氏や高市氏の経済政策が勢いを増しそうだ。

公明党にすれば、政策的に隔たりがあり、政局的にも公明の存在感を薄める維新の大躍進は懸念材料である。維新の連立入りを阻むため、連合(国民民主党)と関係強化を進め「自公国連立」を画策する動きもでてくるだろう。

自民と立憲の二大政党が候補者擁立を見送り「公明vs共産」対決となった東京12区で、連合東京は公明候補の支援に回った。立憲と共産の「野党共闘」と一線を画す連合(国民民主党)が公明を介して自民に接近する展開もありそうだ。

一方、維新の大躍進は、岸田政権が「新自由主義からの転換」を掲げた結果、構造改革や規制緩和を重視する人々が自民党から維新へ流れたことが一因である。来年夏の参院選にむけて自民党と連立して取り込まれるよりは、さらに独自色を強めて躍進し、立憲に代わって野党第一党の座を奪うことを優先するのではないか。立憲がさらに埋没し「自民と維新による二大政党政治」が進む可能性も捨てきれない。

国民民主党は野党共闘とは一線を画して善戦し、与党との連携へ半歩進んだ衆院選となった。いずれにせよ、参院選に向けて自民、公明、維新、国民民主の4党で「連立政権の組合せ」をめぐる駆け引きが水面下ではじまるだろう。来年夏の参院選後はしばらく国政選挙がないため、新しい連立の枠組みを探る動きが加速する可能性もある。

■立憲「敗北」でも枝野氏居座り !? 「枝野おろし」は起きるか

立憲民主党は議席を増やしたものの、政権交代には遠く及ばず「敗北」である。維新の大躍進と比較すれば「惨敗」といえるかもしれない。

二大政党制の衆院選は「政権選択の選挙」であり、野党第一党の勝敗は「議席の増減」ではなく「政権交代の成否」で判定すべきだ。「野党の首相候補」として衆院選に臨んだ枝野幸男代表は「首相として国民に受け入れられなかった」というほかない。この敗北責任は極めて重い。

立憲の議席だけみても、共産やれいわの一方的な譲歩で実現した野党一本化のおかげで小選挙区は伸ばしたものの、比例では低迷し、改めて「立憲の不人気」を印象づけた。維新の大躍進をうけて、野党第一党としての存在感はますます薄れていくだろう。

ところが、枝野幸男代表は31日夜のNHK番組で「多くの選挙区で接戦に持ち込んだ」と強調。政権交代を実現できなかった反省の弁は一切なく、「立憲が議席を増やしたら勝利」との姿勢をにじませた。とにかく代表の座にしがみつく考えなのだろう。

今回の衆院選は、安倍氏の権力私物化にはじまりコロナ禍の医療崩壊に至るまで自公与党の失策続きで迎えた。絶好の政権交代のチャンスだった。

ところが、枝野氏のもとで立憲民主党の支持率はなかなか伸びず、政権交代の機運は盛り上がらなかった。枝野氏は最初から「政権交代」ではなく「立憲の議席増」をめざして代表の座を守ることを優先する「守りの姿勢」にみえた。

「次の内閣」をつくったり「サプライズ候補」を擁立したりといった仕掛けもなく、無為無策だった。それに拍車をかけたのが枝野氏自身の不人気だ。朝日新聞の選挙中の世論調査では「岸田氏と枝野氏のどちらが首相にふさわしいと思うか」で、岸田氏は54%、枝野氏は14%。衆院選を通じて全く存在感のなかった岸田氏に大きく水を開けられたのである。

国民世論が枝野氏を「首相候補」として認めていないのは明らかだ。自公政権が失策を続けるなか、枝野氏が「野党の首相候補」でなければ政権交代が実現した可能性もあるだろう。

それ以上に枝野氏が政治責任を問われるべきは、連合に遠慮して「野党共闘」に後ろ向きな姿勢を見せ続けたことだ。

立憲が野党候補が一本化された小選挙区で議席を伸ばしたのは、候補者調整で大幅に譲歩した共産やれいわの一方的な協力によるところが大きい。ところが、枝野氏は「野党共闘」という言葉を使わず、「単独政権」を目指す姿勢をみせた。れいわの山本太郎代表が出馬をめざした選挙区の調整をめぐって不誠実な態度を取り続け、共産党の志位和夫委員長と同じ選挙イベントに参加しながら写真撮影を拒むという「野党共闘」に水をさす行為を続けた。

衆院選中に野党共闘に冷や水を浴びせるのを避けるため枝野批判を控えた野党支持者は多いが、枝野氏への不信感は募っている。来年夏の参院選に向けて枝野体制で野党共闘を進化させることは不可能であろう。

枝野氏の「幼稚」な対応に比べ、共産やれいわは「大人」の対応が目立った。選挙現場では石原伸晃を破った東京8区の立憲新人・吉田はるみ氏ら山本太郎・れいわ代表とともに街頭に立つ候補者や、香川1区で当選した立憲前職の小川淳也氏ら共産幹部とともに街頭に立つ候補者が続出。枝野氏の「冷たい野党共闘」とは対照的に、選挙現場では「心の通った野党共闘」が展開されたことは特筆すべきだ。

枝野氏が代表の座にしがみつく場合、立憲民主党の議員たちがどう動くのか。来年夏の参院選をにらんで「枝野おろし」が起きるかどうかが当面のポイントである。

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