総選挙は10月27日、投開票される。
自民党はどんどん失速し、石破茂首相はどんどん嫌われている。非公認の裏金候補に「裏公認料」2000万円を支給していたスキャンダルが最終盤に発覚し、自民党は自滅の様相だ。
自公与党が過半数(233議席)を割るのかどうかが最大の焦点である。
石破首相は自ら掲げた「自公過半数」の勝敗ラインを下回った場合、投開票日夜に退陣を表明するのか。それとも約束を破って続投を宣言し、粘るのか。
自公が過半数をギリギリ維持しても(あるいは無所属を追加公認して過半数を回復しても)、来年夏の参院選に石破政権のまま突入することはもはや無理だろう。
石破首相は総選挙最中にブレまくり、国民の信用を失った。「選挙の顔」として落第点がついたのは間違いない。石破政権は長くてあと半年だ。先の見えた首相の言うことには、誰も耳を傾けない。
自公が過半数を割っても、過半数を維持しても、政局の混迷は続く。
総選挙は「ゴール」ではなく、政界流動の「はじまり」にすぎない。
自公与党が過半数を下回っても、立憲民主党中心の野党連立政権が誕生して政権交代が実現する可能性は極めて低い。日本維新の会や国民民主党、共産党やれいわ新選組などの野党はバラバラで、総選挙後の首班指名で一致結束して野田代表を首相に担ぐ機運はまったくないからだ。
一方で、立憲、維新、国民の各党は自公連立政権に加わることを否定している。総選挙で激しく戦ったうえ、裏金問題や石破首相の変節に批判が高まるなかで連立入りすれば、来年夏の参院選でしっぺ返しをうける可能性が極めて高い。少なくとも石破首相が退陣したうえ、「政治とカネ」の問題で政治資金規正法の再改正など大きな前進が見られない限り、連立入りは困難ではないか。
そうなると、自公与党が過半数を持たない「少数与党政権」が誕生することになる。立憲、維新、国民は連立入りしないものの、個別政策で自公与党と政策協議し、合意した予算案や法案については賛成することになるだろう。「パーシャル連合(部分連合)」と呼ばれる政権構造だ。
これまでのように、自公与党が数の力で一方的に押し切ることはできなくなる。一方で、政策決定のスピードが極めて遅く、政権は不安定化する。自公与党が過半数回復を目指して早期の衆院解散に踏み切るか、立憲、維新、国民のいずれかを迎え入れる「連立の枠組み拡大」を目指すか。つねに政局含みの政権運営になるのは避けられない。
石破首相は、自ら掲げた勝敗ラインである自公過半数を大きく下回った場合、無所属を追加公認するだけでは過半数回復のメドが立たず、投開票日の夜に退陣表明に追い込まれる可能性が高い。自民党内では安倍派を中心に石破おろしの気配が強まっているうえ、不人気の石破首相が続投しては野党各党との連携も見込めないからだ。
自公与党が過半数に数議席程度届かない場合は、石破首相は無所属の追加公認など多数派工作で過半数を回復できるとして首相に居座る可能性がある。
この場合も安倍派など反主流派はいつでも石破おろしを仕掛ける構えをみせるのは間違いなく、政権基盤は極めて脆弱だ。
総選挙後に召集される国会で首相に指名されたとしても、国会運営で野党の協力を得られず、ジリジリ追い込まれていく可能性が高い。来年夏の参院選は石破首相ではとても戦えないという認識が自民党内に広く浸透しており、来春の予算成立を花道に退陣し、新たな首相のもとで参院選を乗り切るというのがメインシナリオになっていくだろう。
石破首相が総選挙直後に退陣する場合も、来年夏の参院選までに退陣する場合も、再び自民党総裁選が行われることになる。
任期満了に伴う9月の総裁選と違うのは、総裁が任期途中に退陣した場合の緊急の総裁選となり、国会議員の投票だけで勝敗が決することだ(党員投票はなし)。
総裁レースの先頭に立つのは、9月の総裁選で決選投票に進んだ高市早苗氏だ。
しかし、高市氏を支持した安倍派の多くは総選挙で落選する可能性が高い。高市氏を決選投票に押し上げたのは党員投票だったが、緊急の総裁選は党員投票もない。さらには自公与党が過半数を割った場合は野党との連携が重要な争点となるが、立憲民主党などには高市氏への抵抗感が強い。高市氏は相当に不利ではないか。
緊急登板的に浮上するのは、林芳正官房長官、茂木敏充前幹事長、加藤勝信財務相らベテラン勢だろう。自公与党が過半数を割る緊急事態となれば、党内闘争を激化させている場合ではなく、これらベテラン勢のもとで挙党体制を築く機運が生まれるかもしれない。
いずれにせよ、今回の総選挙は、これからの政界激動のはじまりに過ぎない。来年夏の参院選までどんな政権が誕生しても政権基盤が安定することはなく、政局含みの展開となる。